大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

ユナイトの店内写真
大町北小学校の道を挟んだ西側にブドウ畑に囲まれて小さなワイナリーが建っています

 大町市平の大原地区でワイン用ブドウの栽培からワインの醸造、販売まで一貫して自社で行うワイナリー事業を手がける株式会社ノーザンアルプスヴィンヤード。六次産業化法に基づく「総合化事業計画認定事業者」である農業生産法人を運営する若き経営者・若林政起さんにお話を伺いました。

――この仕事を始めた経緯を教えてください。

若林さん 実は従兄弟が有名なワインのソムリエ(若林英司氏)で実家も近所なんですが、24歳の時に親族の葬儀の席で、はじめて彼の傍で説明を聞きながらワインを飲む機会があったんです。この体験が原点ですね。その時に彼が言ってる事が味として感じられ、分かった気になっちゃった。ひょっとして自分も頑張ればできるかもと思ったんです。でも、自分は作る方をやりたかったんですよ。それでワイナリー建設を目指すようになりました。それで試しに計画してみたら、億単位のお金がかかる。あっけなく夢を砕かれました。

ワイナリー外観と若林政起さん
若林政起さん

 それでも、うちには畑もあるし、ワインブドウは誰もやっていないから、これからやると化けるぞって思いがありました。畑だけでも何とかと思って画策してみましたが、当時は誰の賛同も得られませんでした。それで、東京でシステムエンジニアとして就職しました。1999年、25歳でした。

 その後の2004年頃ですか、ワインブドウ農家だった叔父が、塩尻の木戸ワイナリーで木戸さんから規制緩和で必要な初期投資額が下がったと聞いて、教えてくれたんです。これなら自分にもできるかもしれないと思いました。

 そんな頃、うちの母親が倒れて、翌年に亡くなります。その影響で親父が弱気になり、農業を辞めると言い出しました。それで、最初にこの一角だけを借りて、2008年からブドウの栽培を始めたんです。

秋のブドウ収穫風景
昨年秋の収穫の様子

 収穫までにはタイムラグがありますからね。それ以後は、こっちと東京と行ったり来たり、向こうで仕事したり、派遣で働いたりしながら、何とか持たせました。近くのワイナリーで醸造経験を積み、冬はスキー場でバイトしたりしながら、3年間過ごしました。

 4年目からやっと収穫できるようになりました。だけど全然収量がたりずに食えなかったです。まぁ、今もまだ全然食えてないんですが…。

――ご苦労もいろいろあったようですね。

若林さん 最初は周りの皆が反対でした。親族だけじゃなく世の中にも納得してもらうにはどうずれば良いか考えて、国の六次産業化認定を取りました。1年間は却下されつづけましたが、何とか通りました。銀行から融資を受ける上では国のお墨付きは大きかったですね。

たわたに実ったブドウ
ここまで4年間掛かりました

 ただ、銀行は設備にお金は貸してくれますが、人件費や運転資金は貸してくれませんからね。ワインが売れてお金になるまでの間、どうやって事業を回していくか、初出荷を目前にした今が一番大変なところです。

 どうにか担保なしでお金を貸してもらえる方法はないかを探して、クラウドファンディングを見つけました。ただ、クラウドファンディングは担保が要らないだけに利息が高いんですよ。それで必要なだけに限定して借りました。

――それでも続けてこられた理由はなんですか?

若林さん 自分の性格として、仕事にのめり込み過ぎて、自分の意見が曲げられない。妥協をするのが嫌なんですよ。システムエンジニアの時代にも納得できないことがある度に、衝突していましたし。結局は自分でお金だして、自分の意見を通せる場所をつくらないと駄目だと分かったんです。自分の居場所を作るためには、自営でやっていくしか仕方ないです。

――仕事をする上でのこだわりはどんなことですか?

若林さん フランスのブルゴーニュ地方の栽培者の方って、農家で自分で作って、自分のところで瓶詰めして、ブランド価値つけて販売している。それが格好いいと思っていて、そのスタイルでやりたい。あくまで農業が主体。農業生産法人にして、できるだけ自分のところで栽培して、自分のところでワインを作って売ることにこだわっています。

ピノノワール種の苗木写真
手がかかるピノノアールの苗木

 うちはすごく小規模。たくさん作れないので、大手さんが嫌がることをやろうと決めています。馬鹿みたいに手が掛かって、こんな非効率なことは大手では絶対にやらないというようなものですね。シャルドネやピノノワールという品種を植えています。そうすることで付加価値を高くしていこうとしています。

 地域の方には申し訳ないですが、気軽に飲めるものではないです。販売先として想定するのが、うちの従兄弟がやっているようなミシュランの二つ星、三ツ星というようなお店。そこで扱ってもらえる品質を目指してます。価格としては高めの1本3,000円。シードルの方はお手頃な値段になりますので、普段飲むのにはお勧めです。

――今後の事業展開はどのようにお考えですか?

生産設備の写真
ワイナリーの醸造設備

若林さん 当初はカフェを設ける予定でしたが、六次産業化で制限があってカフェは断念しました。他所で製造したものを販売してはいけなんです。ここは試飲と販売用のスペースです。当面は、ワインとシードルの2本立てでいくつもりです。

 日本ではまだ、シードルのブームは来てないけれど、カリフォルニアでは一気に人気に火がついて、大きな醸造所が次々と建設されています。シードル用リンゴの栽培も広げていく予定でいます。

 現在、従業員は実質自分だけなので、全部一人でやらなければいけません。資金繰りを改善して、早急に従業員を雇える体勢を整えたいと思っています。

――この大町の地域資源の魅力を教えてください。

若林さん ワインの場合は冷涼な気候がいいんです。ブドウ生産地も温暖化の影響もあり、山梨から信州にシフトしてきています。実はここは寒過ぎて、寒さに強い品種を選ばないといけませんが、割に良いものができています。それと地勢的には水はけが重要です。うちの田んぼは、すぐ下が複合扇状地帯。もともとは稲作より果樹向き。水はけ良過ぎてどんどん抜けちゃう。この地域に適した果樹栽培をもっとやったら良いと思います。

農場の耕作風景
冷涼な気候と水はけの良い土地が良いブドウを育てる

 それから、普通の山の土と違って、北アルプスは花崗岩でできているので、土の中に石英や雲母など岩石が風化したものが多数含まれているんです。ミネラル分の多い土壌はブドウに向いているんですよ。

 評価ができる方がうちのワインを飲むと「これ日本でつくったの?」「よくここまでできたね」と言われます。香りが強く出るようで、製造を委託していた醸造家の方も「若林さんのところの樽だけ、何でこんなに香りが出るんだろう?」と言ってました。面白いことにシードルでも同じように香りが強く出るんです。何故か良く分からないけれど。ここに固有の何かが影響しているんだと思います。

――市民の皆さまに伝えたいことがあれば教えてください。

若林さん 大北地区、元気がないように思います。交通の便も悪いから大企業を引っ張ってくるのも難しい。残された道は自分たちでやるしかないですよ。僕はその起爆剤になりたいと思っています。やろうと思えばできるんだから、やりましょうよ。魅力的な地域を他人任せでなくて自分たちで作っていきましょう。

ワイナリー店舗写真
ワイナリー内の試飲と販売のスペース

企業情報

名 称
農業生産法人 株式会社
ノーザンアルプスヴィンヤード
代表者
栽培醸造家 若林 政起
創 業
2013年2月
郵便番号
〒398-0002
住 所
長野県大町市大町 5829
電話番号
ファックス
info@navineyards.lolipop.jp
ウェブサイト
http://navineyards.lolipop.jp

所在地

農業生産法人 株式会社ノーザンアルプスヴィンヤード

 
圧搾工程の写真
ワインブドウ圧搾の様子
シャルドネ2014
シャルドネ2014
ワイナリー外観の写真
2016年オープン予定

今回の記事を持ちまして、連載は終了となります。
ご愛読ありがとうございました。

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)