大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

大町温泉郷のケーキ屋さん『コンディトライ アン・マリーレ』
温泉郷の一角にあるオレンジ色のサンシェードと猫が目印のおしゃれなケーキ屋さんアン・マリーレ。うら若きパティシエ杏さんがお店を始めるのに合わせて、東京の調布から一家で大町に移り住み、昨年春に開店しました。それから一年半、こだわりのおいしいケーキと一家の温かい雰囲気に、地元にもファンが増えています。今回は、ここのパティシエ、間橋杏さんにお話を伺いました。
――初めに、なぜケーキ屋さんを始めようと思ったのですか?

パティシエの間橋杏さん
間橋さん 高校卒業後、お菓子の専門学校に行きました。専門学校の最終課程に海外研修があって、オーストリアのウィーンで半年間お菓子作りを学びました。
その後、軽井沢のホテルに1年、小淵沢のホテルのイタリアンレストランに3年ほどいたのですが、そのイタリアンレストランが地産地消にとても力を入れていたんですね。そこで働きながら、ケーキ屋さんで地元のものをきちんと取り入れてやっているところはあまりないので、自分でお店を持ってやってみたいと思うようになりました。
――東京都調布市の出身と伺いました。どうして調布ではなくて大町でお店を開くことにしたのでしょうか?
間橋さん 実は、中学生の頃に親がこちらに別荘を建てたので、長期休みはこちらに来ていたんです。当時から、親は将来、こちらに住むつもりだったようです。最初に働いたのが、軽井沢と小淵沢だったので、東京を離れることに抵抗はありませんでした。その土地らしさを出すのは地方の方がやりやすいし、注目してもらえるのではないかとも思ったんです。東京のたくさんのケーキ屋さんの中で個性を出すのは難しいですし。
大町に来たのは別荘があったことも大きな理由ですが、それだけじゃなくて、魅力的な食材に出会えたこともあるんです。来る前は長野といえばリンゴとソバのイメージだったのですが、ほかにも探していくうちに、小規模でもこだわりの食材を作っている人がたくさんいることが分かってきました。
温泉郷を選んだのは、例えば自分が旅行に行ったときに、泊まっている近くにケーキ屋さんがあったらうれしいと思ったから。全国からお客さまが訪れるところの方が、やりがいもあるし発信もしやすいような気がします。街からは離れていますが、お客さまは普段は9割が地元の方です。観光シーズンでも6割くらいが地元かな。温泉郷で働いている仲居さんも寄ってくれますよ。
――なるほど、それでは、そのこだわりの食材を使った地産地消について、もう少し教えてください。
間橋さん ウチのお店では、シュー生地やカスタードクリーム、プリンなど、お菓子に使う牛乳は全部松田牛乳を使っています。それから、シフォンケーキには中山高原の菜の花オイルを使いますし、リンゴは峯村農園とみやちゃん農園の物。カシスは峯村農園、クリはみやちゃん農園、ブルーベリーは常盤産、クルミは上原産、手に入るときはイチゴも地元産です。
それから、米粉は池田町産、はちみつは県内産の物にこだわっています。本当はソバも使ってみたいんですけれど、アレルギーの問題もあるので、狭い厨房では難しいですね。
作るときは、甘過ぎないように、素材そのものの味を大切にするようにしています。例えば夏イチゴはすごく酸っぱいけれど、その味を引き立てる使い方をするとかですね。
地元産の物って、地元の人は当たり前過ぎて、特別関心を持っていないように思います。お菓子を通して、地元の食材の良さを発信していけたらいいですね。
――なるほど、地元産の食材への思いが伝わってきますね。使いたい食材がたくさんあることが、杏さんにとっての大町の魅力ということでしょうか。
間橋さん そうですね、先ほど紹介した食材を探している中で、こだわって作っている生産者の方々に出会いました。狭い町なので、一つの出会いが次の出会いにつながったりして、とても面白いです。例えば、私がクリを探していると何気なく話したことで、後になって知らない人から、ウチのクリ使わないかと言われたり。
食材自体ももちろんですが、その食材を作っている人の思いや、そうした人と人とのつながりが、とても魅力的ですね。そして、地元の方に誰の作った何を使っているというようなお話をすると、とても身近に感じてもらえるんですよね。
――移り住んで1年半とは思えないほど、大町に詳しくなっていらっしゃいますね。それでは、新しい取り組みや、今後やりたいと思っていらっしゃることがありましたら教えてください。
間橋さん この「花サク」は、実は菜の花ステーションとのコラボレーションで開発したんです。菜の花シフォンから生まれたプレミアムラスク、箱も菜の花のイメージでかわいいでしょう? ネーミングもパッケージも、みんなでこだわって決めました。
そんな地元生産者とのコラボは歓迎です。お店だけにいるよりも、外に出て行った方が、いろいろな話も聞けるし、出会いもありますよね。昨年は何度か「荷ぐるま市」に出店しましたが、それもきっかけの一つになりました。
それから5月と9月には、自転車の大会のお手伝いをさせてもらいました。9月のグランフォンドでは、フランスのサイクリングイベントにちなんだシュー菓子を400人分作ったので、とても大変でしたが、新しい客層に出会うことができました。今までは、ここにサイクリストがたくさん来ていることもあまり意識していなかったんですが、皆さんとても喜んで召し上がってくださって、大会終了後は、参加された皆さんのブログやツイッターなどで、アン・マリーレの名前が広まり、私のブログを訪れる人も増えたんですよ。それで、店の前にバイクラックを置いて、サイクリストが入りやすいお店作りをしてみたら、何人もの方が常連さんになってくれました。
昨年は松本山雅のスタメシ(スタジアムで食べる軽食)も作りました。松本大学の学生がレシピを考えて、それを私が作ってスタジアムで販売したんです。この夏、試合のたびにやりました。出したのは、サポーターが応援するときに声が涸れないようにということで、はちみつとレモンのゼリー。相手チームの出身地の特産品(栃木ならイチゴとか)を入れて、相手を食べちゃえという演出もして、楽しかったですよ。
新しく使ってみたい素材は日本酒です。せっかく酒蔵があるので、お菓子にも生かせたらと思っています。これまでにも、酒かすを使ったチーズケーキなどを試作してみましたが、できれば酒かすよりも日本酒そのものを使ってみたい。日本酒は、焼き菓子にすると香りが飛んでしまうので、難しいんですよね。何とか使いこなしてみたいです。
――ただお菓子を作って販売しているだけでなく、お菓子作りの技術を地域のために生かしていらして、素晴らしいですね。最後に、これを読んでくださる皆さまに伝えたいことなどがありましたらお願いします。
間橋さん 日本酒に限らず、地域に眠っているいい物や、新しい物を生かして、人とのつながりの中で何かできればうれしいですね。皆さまからのアイディアがあれば、歓迎ですよ。

お菓子は店内でゆっくり召し上がれます
企業情報
- 会社名
- 大町温泉郷の洋菓子店
コンディトライ・アン・マリーレ - 代表者
- パティシエール 間橋 杏
- 創業
- 平成23年(西暦2011年)4月
- 郵便番号
- 〒398-0001
- 住所
- 長野県大町市平2811-11
- 電話番号
- 0261-85-0702
- ファックス
- 0261-85-0702
- Eメール
- お電話またはファックスで
- ウェブサイト
- http://anne-marille.com/
大町温泉郷バスのりばの目の前です。
アン・マリーレの所在地
次回は、フジゲン株式会社のギター職人の皆さん。