大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

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四季折々に美しい中山高原に建つ美麻珈琲

 NHK連続テレビ小説「おひさま」の一面のそば畑のロケ地として注目を集めた中山高原。春にはそば畑の代わりに菜の花が丘を染め、その向こうには残雪の北アルプスの山々を見ることができます。この絵葉書の景色のような中山高原の一角に佇むお洒落な喫茶店が美麻珈琲です。
 今回は店長の塚口紗希さんとお兄さんの塚口尚哉さんにお話を伺いました。

――兵庫県の出身だと伺いました。なぜ美麻に来たいと思ったのでしょうか。

美麻珈琲のスタッフ写真
店長の塚口紗希さん

紗希さん 私たち兄弟は、子供のころ、美麻の山村留学を体験しているんです。親が、農業体験やキャンプなどの自然体験をさせたいということで、初めに兄が参加しました。送り迎えをする親に付いてきているうちに、私もこちらに友達ができて、小学校4〜5年生くらいで山村留学をさせてもらいました。

 父は山が好きで、学生のころからこの辺りに住みたいと思っていたそうです。私たちの山村留学以来、留学生の親の交流やボランティア等、父はずっと美麻とかかわりを持ってきました。いよいよここに拠点を構えて何かやろうというときにも、その時以来交流の続いている地元の皆さんにずいぶん助けてもらいました。こんないい場所に巡り合えて感謝しています。そうしてみると、父はずっとこちらに移住するということに想いを馳せていたのかもしれません。

――それでは、ここで喫茶店を始めたのはお父さんの考えですか?

紗希さん はい。やっぱりどうしても美麻に移り住みたいと思ったときに、父としても何か母を説得する理由が必要で、コーヒーの焙煎をやろうと思ったようです。父は兵庫県の三田でサント・アンという洋菓子店(本店)を経営しているので、そのお菓子とコーヒーを使った仕事なら全国に発信しやすいと思ったんじゃないでしょうか。

美麻珈琲の外観写真
周囲の美しい自然にマッチした建物

尚哉さん 僕も経験があるのですが、菓子職人というのは、朝早くから夜遅くまで立ち通しの、本当にキツイ仕事なんです。そういう状況を変えられるような新しいビジネスモデルを探したい。父が美麻珈琲を始めた根っこにはそんな気持ちもあったようです。そして、何より『一からつくり上げる』ことが好きな父ですから、この地で建物からつくることを物語にしたかったのでしょう。今、父は、ここを僕らに任せて兵庫に戻ってしまいましたが、いずれこちらに移り住むかもしれません。

――絵のような美しい風景の中で、憧れの喫茶店を始めたというような、夢がいっぱいの物語を期待していたのですが、それだけではないようですね。

美麻珈琲店内の写真
珈琲とともに本店から届くお菓子も自慢

尚哉さん そうですね。私自身この場所はとても気に入っていますし、ここでの仕事や暮らしにも満足しています。でもその後ろには、しっかりした事業計画と本店の後ろ盾があるんです。長期計画も短期計画もあり、今のところ計画どおりに着実に事業を進めています。ここを拠点に全国にコーヒー豆の発送と業務用の販売があってこそ成り立つ店舗です。喫茶だけの収入ではとても立ち行かないのです。憧れだけで始めるのはお勧めできません。

紗希さん 昨年は中山高原自慢の菜の花が咲きませんでした。その代わり夏のそば畑はおひさまブームでにぎわいました。菜の花もそば畑も、素晴らしい資源ですが、それに頼るようではいけないと思っています。たまたまそこにあったものだから。立地条件や風景に頼るのではなく、お店はどうあるべきなのか、美味しいコーヒーや居心地のよさを追求していく努力を大切にしたい。実際は菜の花とそばに合わせて客足には大いに波があるんですけれど(笑)。

――お店づくりの真剣さやお客様への真摯な姿勢が伝わってきます。
美麻珈琲のこだわりについてもう少し聞かせてください。

美麻珈琲の外観写真2
セルフビルドで建てたストローベイルハウス

紗希さん もともと父は、朝早くから夜遅くまであくせく働くだけじゃないライフスタイルを目指して、この店を開きました。まず、ここの自然環境に合った建物づくりをするところから始めたんです。この店は、藁のブロックをレンガのように積んだ上に漆喰で固めたストローベイルハウスで、いろいろな方に協力していただきながら、自分たちで建てました。冬でも暖かく、快適です。

尚哉さん 店が僕らに託された今、スローで豊かな暮らしへのチャレンジという『ライフスタイル提案型店舗』美麻珈琲の理念を、僕ら自身の暮らしの中で具現化しようとしています。店をやる傍ら、畑を耕して子育てをして。お客さまに対しても、都会の忙しさに疲れてここに来る方も多いので、ゆったりした時間の中で癒される空間を提供できるように心掛けています。本を読んだり絵を描いたりしながら、こんな生き方もいいなあと感じてもらえたら嬉しいですね。

――スローな暮らしの中で、生活できるだけの収入を得る。そのためには知恵と工夫が必要ですね。

紗希さん 先ほども少し触れましたが、ここではお菓子を作っていません。コンパクトな店舗にすることで初期投資を抑えたかったし、お菓子作りは一箇所でやった方が環境負荷も少ないので、本店のものを扱うことにしたんです。本店にとっても、美麻珈琲はイメージアップや販路拡大に貢献しています。例えば、りんごのシロップ煮など、大町ならではのものを加工して、本店に材料として送り、双方で魅力を高め合っています。

ニュースレターの写真
定期購入会員向けニュースレター

尚哉さん ここでは、生豆を選んで購入し、焙煎しています。業務用の卸もします。コーヒー頒布会というのは、会員の方に毎月決まった量のコーヒーをお届けするシステムですが、ここで飲んでおいしいと思ってくださった方に利用していただいています。コーヒーを送るときに、地域の季節の情報を添えているので、楽しみに訪れてくれる方もいらっしゃいますよ。 僕らは本店の従業員で、本店からお給料をもらっているのですが、頒布会等の事業を組み合わせることで、僕らの人件費分くらいの利益は何とか生み出せていますね。

紗希さん 私はパート店長ですけれどね(笑)。

――最後に、そんな美麻珈琲にとって大町市の魅力とは何でしょうか。

スタッフの写真
美麻珈琲スタッフの皆さん

尚哉さん 美しい山が見えることかな。それに、こだわりのコーヒーを入れるのに欠かせないおいしい水と豆の保管に適した冷涼な気候、澄んだ空気。ここは静かで人工物が少なく、原点に返ったようなスローで豊かな暮らしができます。地元の人たちはよく「何もない」と言うけれど、何もないこと自体が素晴らしい資源だと僕は思う。半年前に子供が生まれて父親になったけれど、ここで子育てをしていくのを楽しみにしています。

紗希さん 私も最近結婚して家庭を持ちました。お店に出たり畑を耕したりしながら、地に足の着いた暮らし、私たちなりの理想の暮らしにチャレンジしたい。お金には換えられない、かけがえのない豊かさを、私たちはここで実感しています。

珈琲のイメージ写真
田舎暮らし関連の蔵書も多数あり

企業情報

店舗名
美麻珈琲
代表者
店長 塚口 紗希
創業
2008年5月オープン
郵便番号
〒399-9101
住所
長野県大町市美麻14902-1
電話番号
0261-23-1102
ファックス
0261-23-1102
miasa@saintan.com
ウェブサイト
http://www.miasacoffee.com/

鹿島槍を背に菜の花・そば畑が広がる中山高原

美麻珈琲の所在地

看板の写真
県道31号線からの入り口は、この看板を目印に!
美麻珈琲周囲の写真
目の前はお花畑、周囲はカラマツ林という気持ちの良い空間
中山高原の写真
珈琲と共にぜひ、この素晴らしい景色も堪能してください。

次回は、酒蔵3社((株)市野屋商店、(株)薄井商店、北安醸造(株))の杜氏さんを紹介します。