大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

フジゲン大町工場の外観写真
大町市の南部、国道147号線須沼交差点付近のJR沿いにあるフジゲン大町工場

 1960年に富士弦楽器製造株式会社として発足、国内のギターメーカーの先駆けとなったフジゲン。1989年に社名を変更した後は、協力会社のグループ化を図り、こだわりのギターを安定的に生産する体制を強化してきました。市内常盤の大町工場では、ギター作りをしたくて県外から来た若者が夢を持って働いています。今回は、フジゲン大町工場営業部に勤務する香川県出身の女性、佐々木優予(ささきまさよ)さんにお話を伺いました。

木材加工風景写真
丁寧な作りが自慢のFUJIGENギター

――初めに、どうしてこの仕事を選んだのですか?

佐々木さん 高校・大学と軽音部でバンドを組んでいました。演奏も好きだしものづくりにも興味がある。悩みましたが、好きな事をやってみようと、大学卒業後、ギタークラフトの専門学校に入り直したんです。

 就職先を考える時期になって、やっぱり音楽にかかわる仕事がしたいと思いました。学校から約3社斡旋されて、選んだのがフジゲン。フジゲンは、OEMで有名なブランドを作っていました。

(OEM:Original Equipment Manufacturerの略で他社ブランドの製品を製造すること)

――女性が単身で、ギター作りのために、実家から遠い大町に来るというのは、大変だったのではないですか?

佐々木優予さん写真
佐々木優予(まさよ)さん

佐々木さん そうですね。知り合いもいない土地で一人暮らしをしながら働き始めるのは、正直勇気が要りました。

 最初に専門学校に入ろうと思ったのは高校3年生の時でしたが、その時は親に反対されました。「大学に行ってみてからもう一度考えたらいいんじゃない?」と説得され一旦は関西の大学に進学しました。でも、大学の軽音部でよりいっそう音楽が好きになり、卒業する時に結局専門学校に行くことを決めました。その時はもう反対されませんでした。

 ギター工場は名古屋や長野に集中しているんです。就職時にはどちらにしても実家から離れるしかありませんでした。

――なるほど、夢を貫いたんですね。女性にとっては勇気付けられる話です。ギター工場が長野に多いというのは初めて知りました。面白いですね。

佐々木さん 長野の内陸性の気候は、木を扱うのに合っているんです。それから、この辺りでは昔から木を扱う家具屋さんが多かったので、それが理由なのではないかとも言われています。

――それでは、フジゲンでも、大町の気候を生かして加工をしているということですか?

木材加工風景写真
ギター業界では世界で初めてNCルーターを導入

佐々木さん はい、フジゲンのギターは、OEMも自社ブランドも、すべて木を素材としています。木は生き物なので湿度管理が重要で、そこを丁寧にやらないと出来上がってからも音が安定しません。大町工場では、木材の備蓄から、木工加工をする工程と、最終工程の組み立てをやっています。大町の適度に乾燥してきれいな空気が、ギター作りに適しているんだと思います。

――ほかにもフジゲンギターのこだわりを教えてください。

佐々木さん 一言で言えば作りが丁寧ということでしょうか。これが、ユーザーさんから頂いている最も多いご意見です。

木材加工風景写真
フレットサイドの処理も美しい

 ギターはネック部分が反りにくく安定していることが重要です。フジゲンでは素材にこだわり、木材の買い付けから乾燥工程を自社で管理しています。十分乾燥させてから木取りすることで、木が安定するんです。それから、サークルフレッティングシステムといって、すべての弦と直行するように、フレットが円弧状になるシステムを採用しています。そうすることで、立ち上がりの良い、クリアなサウンドが得られます。フレット・サイドの仕上がりの良さにも定評があり、演奏性が良いという声をよく頂きます。

――佐々木さんのように、県外からギター作りに来た方がほかにもいらっしゃると伺いました。

佐々木さん 同じように専門学校を出た同世代が結構いますね。京都や大阪からも来ていますし、北海道から来ている人もいます。

――こちらでの暮らしはいかがですか?

佐々木さん まず、当たり前なんですが雪が多いことがカルチャーショックでした。雪が降ること自体が珍しい四国出身なので。入社式の日、朝アパートを出ると雪がちらついていて、4月なのに雪が降ることにびっくりしたのを今でも覚えています。その分、夏がすごく過ごしやすいです。真夏でも、陽が落ちてくると涼しくなる。空気もきれいで、大町の春・夏の晴れの日は大好きです。

 後は、街灯が少ないのもあると思いますが、晴れの日は星がすごくたくさん見えて、仕事帰りに癒されたりします。

――夢を貫いて仕事について、どうですか、やりたかったことができていますか?

佐々木さん そうですね、入社して5年になるんですが、最初の半年は組み立て工程の仕事でした。今はオンラインショップの仕事をしています。組み立て工程では、流れ作業とはいえ、好きなものづくりにかかわる仕事だったので、異動になった時は正直残念な気持ちもありました。でも今は、営業の仕事を精一杯頑張りたい。フジゲンは、自社ブランドの「FUJIGEN」と「FGN」がようやく一般的に認知され始めたところで、今が勝負時なんです。

ファクトリーハウス写真
工場に併設されたファクトリーハウス

 そもそも仕事で好きなギターにかかわれていること自体、とても恵まれていると思っています。

――お話を伺っていて、誇りを持ってお仕事をされているのが素晴らしいと思います。今後、何かやってみたい事はありますか?

佐々木さん とてもささやかで個人的なことではありますが、まず大学時代の友人や今のバンド仲間に、フジゲンのギターやベースを知ってもらいたいですね。そして買ってもらいたい(笑)。

 フジゲンは工場見学ができて、ギターを試奏してもらうこともできるんですよ。夏は観光シーズンということもあって、ほぼ毎日お客さんが見えます。大町にも音楽フェスティバルがあると聞きました。フェスに来るマニアなお客さんにもアピールできたらいいですね。

――それはいい考えですね。今日のお話で、すっかりフジゲンのファンになりそうです。最後に、これを読んでくださる皆さまに伝えたい事などがありましたらお願いします。

佐々木さん 先ほども触れましたが、せっかく近くに工場があるので見学に来てもらいたいです。木材の状態から、木工加工が施され、弦が張られて出荷されるまでの流れをご覧いただけます。そして、工場見学の後は、ぜひファクトリーハウスにもお寄りください。

喫茶のイメージ
世界に誇るメイド・イン・大町

企業情報

会社名
フジゲン株式会社
代表者
代表取締役社長 上條啓水
創業
昭和35年(西暦1960年)5月
郵便番号
〒398-0004
住所
大町工場:長野県大町市常盤3680-1
電話番号
0261-23-4708
ファックス
0261-23-5859
g-shop@fujigen.co.jp
ウェブサイト
http://www.fujigen.co.jp/

国道147号線須沼交差点西側

フジゲン大町工場の所在地

ファクトリーハウス内部写真
工場見学が可能です(要予約)
毎月第2・第4金曜日 13:00〜
定員10名まで
松本本社工場写真
フジゲン松本本社工場では
高級乗用車用ウッドパネルを製造

次回は、手作り食品 蛍を紹介します。