大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

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株式会社 創舎 代表取締役社長 渡邉充子 さん

 100年以上前に建てられた古民家に現代の息を吹き込み、地元の食を味わえる
お休み処として生まれ変わった「わちがい」。素敵な空間とおもてなしにファンも増え、
まもなく丸7年を迎えようとしています。

 初回となる今回は、「わちがい」の仕掛け人 渡邉充子(わたなべみつこ)さんに、
今までの取り組みや思いを伺いました。

――そもそも、どうしてわちがいを始められたのですか?

渡邉さん もう10年も前、いーずら特産館で働いていた頃のことですが、街中で道路の拡幅工事があったときに、近所のおばあちゃんが、昔からの家を改築して中庭を潰さなければならないと、切ない気持ちをこぼしていかれたんです。改めて周りを見回してみて、初めてここってすごい街だと気付きました。八日町の通りには塩の道博物館をはじめ、歴史ある建物が残っていましたし、本通りを少し歩けば市野屋商店さんや今のわちがいがありました。

 この街を大切に残さなければ、次の世代に残せる財産だ、と思いましたね。いつも通っていた場所だったのに、目に入っていなかった。

わちがい外観
古民家を再生した食事処「わちがい」

 この建物を、街並みを残したい。まずは地元の大勢の方にこの素晴らしさに気付いてもらいたい。わちがいをお借りして、何ができるかを考えるために、大掃除から始めてみました。資料館として何か展示してみても、それほど多くのお客様は見込めません。食事処にすることで足を運んでもらえるのではないか…。素人として食を提供することにはためらいがありましたが、おざんざや地酒、お菓子など地元の食を紹介するお休み処として、とにかく株式会社を立ち上げ営業することにしました。

――株式会社を経営していくということは大変なことだと思いますが。

渡邉さん お客が少ない冬の間、少しでも安定的な収入を得るために、当初から住み込み杜氏さんの賄いを請け負うなどの工夫はしてきました。

わちがい広間
落ち着いた佇まいの広間で郷土料理が楽しめる

 株式会社を立ち上げたことで、営利目的だと捉える人も多かったと思います。個人所有の建物に行政がお金を出せる訳もなく、思いのある4人が出資して始めましたので今の形になりましたが、株主として求めるのは配当ではなく、地域への貢献です。きちんと法人化して税金を払うことで大町に少しでも恩返しをしたいという気持ちもあるんですよ。

――食だけでなく、観光の拠点やギャラリーとしても場を提供していますね。

あかり展写真
併設されているギャラリー(例)

渡邉さん 立ち上げから2年間、観光ボランティアさんの常駐場所として使って頂きました。その後観光ボランティアさんは駅前に拠点を移されましたが、今でもわちがいの心強い応援団でいてくれます。

 企画展では、手仕事展や、灯り展、和紙と灯り展などを通して、いろいろな方との出会いがありましたし、一緒に企画展を作り上げるのは大変楽しいことでした。私たちもがんばっている皆さまに勇気をいただきましたし、何とかこの町の作家の方々を応援していきたいという思いを強くしました。作家の皆さまもわちがいの応援をしてくださり、麻倉再生の動きにつながっていったと思います。

 この冬は、ぐるったネットワークの皆さまが、ホテルの宿泊のお客様を対象に、こちらの二階でおやき作り講習を行い、大勢のお客様に喜んでいただきました。
それぞれの得意なことを活かしてがんばっている方が大町にはたくさんいらっしゃいますので、これからもぜひ連携して、一緒に大きな輪になり、この町を元気にしていきたいですね。

――事業を展開する上でこだわっていることを教えてください。

わちがい冬景色
四季を通じて大町の良さが感じられる

渡邉さん おもてなしの心については、特に私の思いをスタッフにも徹底してきました。おもてなしを10とすると、初めの3は第一印象です。お掃除が行き届いていること、笑顔でお迎えすることなど、第一印象はとても大事です。次の3はお料理です。味はもちろん、地元の食材にこだわり、見た目や盛り付けなども大事にしています。次の3はお料理に添える言葉です。お料理についてきちんと説明できること、「今朝こんな材料が手に入りましたので、こんなお料理にしてみました。地元の味ですので召し上がってみてください」そんな言葉を添えることで、お料理のおいしさも増しますし、地域の食をお客様に紹介する橋渡しにもなると思っております。

 そして一番大事にしているのは残りの1、お客様にもう1回来たいと思ってもらうことです。お客様に気に入っていただき、何度でも来ていただける場所でありたいですね。お客様の言葉からは学ぶことが多いんです。シャッター通りですが、「静かでいい街ね」といってくださる方もいらっしゃいます。分かってくださるお客様は何度でも来て下さり、ファンになってくださいます。昨年の震災後、客足がピタッと途絶えたときには、本当にリピーターのお客様に助けられました。5月の連休に訪れてくださったほとんどの方がリピーターの方でした。

 この7年間、いろいろ模索する中で、批判されることもあったでしょうが、反論はせずに、できることをやるように努めてきました。おもてなしの商売ですから、いつも笑顔でを心しています。

――大町のどんなところに魅力を感じていますか。

渡邉さん いい空気があって、こんなに素晴らしい景色があって。街だって、静かで風格と品格があるいい街だと思います。こんなところに暮らせてとても幸せです(笑)。

 大町はそれなりに豊かで危機感が少なく、時代の流れに乗り遅れてきたところがありますよね。でもそのおかげで、街中の歴史ある建物や街並みがそのまま残ってきたんじゃないでしょうか。わちがいで使わせていただいている凍り餅や凍み大根も、一つ一つがすごい知恵だったり文化だったりします。せっかく残された古いものや、この地ならではの生活の知恵をもう一度見直して、この町に誇りをもって暮らしていきたい。そうすれば、もっともっと、素敵な町になると思います。

――今後の事業展開や新たな取り組みがあれば

渡邉さん 当初から、わちがいが街中の元気づくりの拠点になればと思ってやってきました。3年ほど前から作家の皆さまを中心に行ってきた麻倉再生のプロジェクトも軌道に乗りつつありますし、塩の道博物館再生への取り組みも始まりました。街中のいろいろな取り組みの連携がようやくでき始めてきたと感じています。それぞれがんばってくれるところが連携して、大町らしい色が出てくればいいですよね。まだまだ、街の中には古い建物がたくさん残っています。一つ一つは個人の所有ですが、全体を町の財産としてなんとかうまく残していくことはできないでしょうか。自分たちが街並みを守っているという意識は、地域への愛着や誇りにつながります。

 たった一度の人生をやってみたいと思うことにチャレンジする勇気、そんな勇気を持って行動する次の世代にバトンを渡していきたい。私はそのパイプ役になれればと思っています。

スタッフ写真
わちがいスタッフの皆さん

企業情報

会社名
株式会社 創舎
代表者
代表取締役社長 渡邉 充子
創業
2005年7月
郵便番号
〒398-0002
住所
長野県大町市大町4084番地
電話番号
0261-23-7363
ファックス
0261-23-7363
wachigai@image.ocn.ne.jp
ウェブサイト
http://www.wachigai.com

大町で古い日本家屋を巡ってみませんか?

わちがい周辺地図

塩の道博物館の写真
この春、リニューアル・オープンした塩の道博物館
麻倉の写真
ワークショップなどで賑わう麻倉。地元作家の活動拠点。
市野屋商店の写真
金蘭黒部の蔵元、市野屋商店は典型的な町家造りの建物。

次回は「美麻珈琲」を予定しています!