大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

等々力農園のハウスで育つ夏秋イチゴ
等々力農園のハウスで育つ夏秋イチゴ

 大町市常盤須沼の等々力農園では、当地の冷涼な気候を利用して出荷時期をずらした夏秋イチゴの栽培が行われています。春から秋までケーキ材料として洋菓子メーカーとの契約栽培で夏秋イチゴを生産する一方、冬季にはロッジとスキー学校の経営を手掛ける等々力潔(とどろききよし)さんにお話を伺いました。

――この仕事を始めたきっかけを教えてください。

等々力潔さんの写真
等々力潔さん

等々力さん 実は僕はね、冬はスキー学校をやっています。大学で一回は東京に出たんだけど、卒業前にUターンしてきちゃったんですよ。もう嫌になってね。帰ってきて、親父の経営するスキー学校の手伝いを始めました。大町のスキー史には必ず名前がでるくらいの人で、そんな親父に小さいころからスキーに連れられていたんで、僕ものめりこんじゃってましたからね。

 歴史をさかのぼるとね、最初は猪谷スキー場。日本スキーの草分け猪谷六合雄(いがやくにお)が「スキーはパラレルから」という、その当時は珍しいメソッドを考案。パラレルがスキーの最高峰だった時代に「ボーゲンなんかやらなくても、いきなりパラレルに行けるよ」っていうパラレルメソッドをやりだしたんです。親父は、彼に師事し、その白馬分校という形で、白馬パラレルスキー学校を1961年に開設。3年後にヤナバに移転して、そこで35年。途中で私が引き継ぎました。その後、スノーボードやカーヴィングスキーなどが出てきて、傾斜の大きいゲレンデが適さなくなりました。ロッジも老朽化していたし、思い切って斜面も新しいところに変えようと、1998年に移転したのが爺ガ岳。Gスキーアカデミーと名称を変更し、以来、そこでやっています。

 本当はこれをしたいんですが、一年中スキーできるわけではないですよね。好きなスキーを続けて行くために、オフシーズンをどう過ごすかが重要なんです。たまたま実家がこっちにあったので、農業を継いで、スキーと農業でやっていくことにしました。できたらスキー仲間にもそんな道で一緒に暮らして行ければいいなぁと。それが農業に取り組んだ動機なんです。お米だけじゃ駄目なんで、切り花をやったり、鉢花をやったりしました。冬のシーズンと組み合わせるものとして、イチゴに落ち着きました。夏秋イチゴと呼ばれるものです。

――夏秋イチゴとはどんなものですか?

等々力さん 市場を通してスーパーなどに普通に出回っているのが冬春イチゴなんですけどね、12月頃から出始めて、6月ぐらいになるとパッタリ姿を消します。でもケーキ屋さんに行くと、イチゴのケーキが1年中並んでいますよね。イチゴがないときにどうするかといえば、昔はアメリカからの輸入でした。空輸しても到着までに半分は傷んでしまいます。なんとか国内で作れないかという流通業者の要望を満たそうと始まったのが、夏秋イチゴです。ケーキ材料として使われるため、冬春イチゴより実が硬く、酸味が強いのが特徴です。

夏秋イチゴのクローズアップ写真
夏秋イチゴはケーキ用として出荷される

 夏秋イチゴは、初めは北海道や東北で細々作っていたんですが、需要が増大しまして、涼しい信州で作れないかという話しが農協に来たそうです。それで、15〜16年前に農協から勧められたんですよ。この辺りでは10人くらい興味を示したのですが、実際に参加したのはうちだけでしたね。現在でも市内では2軒だけです。実は栽培農家は増えているんですが、あづみ農協とか松本ハイランドとか南の方ばかり。今では15軒ぐらいになってるんじゃないかな。それと新規就農する人も、あっちの人ですね。大町で若い人がいないのが寂しいですね。

 イチゴは、科としてはバラ科なんですよ。イチゴは特殊な植物で、特に繁殖に関しては、種でも増えるし、分蘗(ぶんけつ)でも増えます。それから、ランナーていうつるが出て、節ができて、節から根が出てくるんですよ。そして、根が出たところに土があると、そこからまた増えていくんです。だから、繁殖力が旺盛で、丈夫なんです。お米なんかは氷点下になれば駄目ですが、イチゴは雪の下でも生き続ける。活動は止まっちゃいますが、逆に50度ぐらいの高温でも生き抜きますからね。

――では育てやすい植物なんですか?

収穫風景の写真
食べごろのイチゴを丁寧に手摘みして出荷

等々力さん 収量を上げようとすると、それなりの苦労はあります。ビニールハウスには保温の目的も多少はあるんですが、主には夏の暑さをしのぐためです。直射日光を避けたり、雨が直接当たるのを防ぎます。日よけしたり、遮光材を張ったりしてね。また、あのベンチの中には冷却水が通ってるんですよ。冷水を通して培地を冷やしています。皆さんはイチゴは暖かい方がいいと思っているでしょうが、生育適温は20度ぐらい。夏の30度になると必死に生きているような状態です。

 長野県で夏秋イチゴやっている人は、高原野菜から転換した人が多いんですよ。場所的には野辺山とか川上村とか、標高1,000メートルくらいのところ。うらやましいですね。標高650メートルじゃ、なかなか厳しいですよ。

――どんな種類を栽培しているのですか?

等々力さん 栽培種は、去年まではサマープリンセスでしたが、今年からはすずあかねです。北海道の種苗会社が作ったものです。

 サマープリンセスのメリットとしては、種苗代が掛からないことがあります。長野県が開発した品種だから県内で栽培する限りは自己繁殖可能。つまり、自分で増やしてもいいんですよ。普通は、種苗会社から買うんです。種苗法という法律があって、勝手に増やすのは犯罪行為なんですよ。だから「夏のイチゴ、面白いね、ちょっと分けてね」というのはダメです。特許みたいに開発種を保護する仕組みがあるんですよ。すずあかねに変えたのは、暑さに強いという特長に期待したからです。

――どこに出荷しているのですか?

出荷風景の写真
6月の半ばから11月いっぱいまで収穫が可能

等々力さん 以前は、普通に市場に出荷していましたが、今は全量を契約栽培で、洋菓子メーカーさんに納めています。以前は、収穫してからケーキ屋さんのショーケースに並ぶまで2〜3日掛かるから、イチゴが白いうちに収穫していました。今では、一括で契約で流通が早いから、今日収穫したイチゴは、明日にはケーキになっています。赤くしてからでもいいからすごく楽ですよ。

 以前は、ソフトパックに詰めて、さらに段ボールに詰めて、出荷していました。出荷資材だけでもすごく高いし、選別して並べるのに二人掛かりで丸一日、加えてもう一人、箱作り専門の人が必要でした。今は、通い箱なんで、何度も再利用できます。手間も経費も楽になりました。

 メーカーと直接取引する農家もありますが、うちは農協を通しています。直接だと言いにくい要望も間に入ってもらっていると伝えやすいですし。

――仕事をする上でのこだわりはどんなことですか?

イチゴの花のクローズアップ写真
品質を保つため、一番果の摘花は欠かせない

等々力さん 不要なものを早めに処分するってことでしょうか。花が咲くと、いずれ実がなるのが分かっているから、なかなか摘花できないのですが、ケーキ屋さんが欲しがるものは、ケーキの上に乗ったときに見栄えのいいイチゴです。だから、大き過ぎてはダメ、いびつなのはダメ、虫が這ったようなのもダメ。形の良いのを作る必要があります。

 イチゴは何段かに枝分かれしながら成長します。そして、枝分かれするところに実を付けます。房が一本出てきますよね。枝分かれした所に1つなるんです。そしてその先でもう一度枝分かれするんですよ。つまり、一番果が1個、二番果が2個、三番果が4個できるんです。最初ほど大きくて、二番、三番と小さくなってくる。元気のいい一番果のものは、大きくなり過ぎてゴツゴツしちゃうんですよ。だから一番果は外します。そうすると二番果がものになりやすい。

――大町市の地域資源の魅力を教えてください。

イチゴの箱詰めの写真
農園で働く女性も冬はスキーの講師

等々力さん 夏のイチゴに関しては、この気候条件じゃないと絶対にできません。標高650メートルでは、まだ足りないけれども冷涼な気候は必須です。それと水ですね。高地であったとしても、水がないと話になりません。幸いに大町市は、水資源が豊富なので、気にせず使わせていただいているけど、普通のところだったらばか高くて、水道水なんて使えないと思いますよ。

 また、近隣の皆さんいい人ばかりで、忙しい時に声を掛ければ、快く手伝ってもらえます。手の掛かる作物なんで、とても助かっていますね。

 冬のスキーの仕事に関しては、言わずもがな。当地の地理的環境と気候はもう絶対条件ですね。

――今後取り組みたいことはありますか?

等々力さん 夏のロッジスカディの建物の有効活用も含めてのことなんですが、ロッジの宿泊と農業体験をセットにして売っていきたいですね。この辺には花を栽培している人もいるし、リンゴ農家もあるし、もちろんイチゴもですよね。ヤナバにあったころには都会の幼稚園児を対象に夏休みを利用した自然体験教室を開催していましたが、そんなこともできたらいいなぁと思います。これまでも、グリーンツーリズムなどと絡めて試みてきたのですが、なかなか結果がでていません。長年の課題ですね。

――市民の皆さまに伝えたいことがあれば教えてください。

爺ガ岳スキー場の写真
子供たちのソリやスキーに適した爺ガ岳の広い緩斜面

等々力さん 爺ガ岳スキー場の良さを見直して、もっとスキーに来てほしいですね。あれだけ広い緩斜面を持つスキー場は他にはあまりありません。広いところは他にもありますが、人も多いんですよ。だから占有スペースというか、自分が滑る場所はそんなにはありません。爺ガ岳は、あれだけ広いところに、あれだけ人が散らばったって、まだどこでも行けるくらい自分の周囲にはスペースがあります。何か新しいスノースポーツを始めるには本当にいいですよ。

 冬の間、Gスキーアカデミーは、平日はスキー教室、土日はそのスキー教室のために練習に来る子供たちで賑わっています。初めてのスキーなので心配だからと親御さんが連れてくる場合が多いですよ。マンツーマンで教えて「初めてのお子さんでも必ず1時間で滑れるようにします」というプログラムも人気です。せっかく大町市にお住まいなのですから、もっとスキーに出掛けてみませんか。楽しいですよ。

イチゴハウス外観
等々力農園の夏秋イチゴ栽培ハウス

企業情報

組織名
等々力農園
代表者
等々力 潔
創業
平成11年(夏秋イチゴ栽培開始年)
郵便番号
〒398-0004
住所
長野県大町市常盤4184
Tel & FAX
0261-22-1507(春〜秋/農園)
Tel & FAX
0261-23-7500(冬/スキー学校)
todogsa@dhk.janis.or.jp
ウェブサイト
農園はなし、スキー学校はこちら

農園・学校・ロッジ

等々力農園の関連施設

 
イチゴ栽培ハウスの写真
宿泊とセットの摘み取り体験あり
ロッジスカディの写真
爺ガ岳スキー場のロッジスカディ
スキー教室の写真
スキー学校のことも相談可能

次回は「北ヤマト園」を紹介します。

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)