大町市に魅力を感じ、Iターン・Uターンして地域に根ざした仕事に従事されている
皆さんや、大町市の地域資源を活用した仕事を起業された皆さんを紹介します。

根曲スギの椅子の写真
根曲スギの椅子を前に… 雪国の材の特性を生かした簡易ベンチ。

 大町の良さを尋ねると、多くの方が豊かな自然環境を挙げます。美しい北アルプスの山々と清流、湖、ふもとの森、里に広がる田園…。その中でも森林は、地域の自然環境を支えている大きな要素、いわば地域の背景ともいえる存在です。

 今回は、森と人との共存を目指して林業の現場で働く山の仕事人集団「企業組合山仕事創造舎」を立ち上げ、代表をされている香山由人(かやまよしと)さんにお話を伺いました。

――香山さんは、国会議員の秘書をやっていらしたこともあるそうですが、どうして大町にいらしたのですか?そして、どうして林業をやろうと思ったのでしょう?

香山由人さん(撮影:前田聡子)
香山由人さん(撮影:前田聡子)

香山さん 僕が育ったところは川崎市多摩区で、急速に新興住宅地になってしまったところだけれど、僕が小さい頃はまだ田舎でした。基本的な生活感覚として田舎志向だったので都会で会社に就職するという生き方は考えていなかった。議員秘書も、たまたま大学卒業後フリーでいたら、アルバイトに誘われただけで、ずっとやろうと思っていたわけじゃない。仕事の性質上気楽なアルバイトというわけにはいかなかったけれど、政治の世界にずっといるつもりはなかった。大町に来たのは、結婚相手がたまたまここ出身だったから。平成4年に初めて大町に来て、近くの田舎ということで八坂に移住したわけです。

 初めは漠然と農業をやろうと思っていたけど、何にも持たない素人に八坂で農業は難しいでしょ。そうしたら、林業というのがあったわけ。資本金は要らないし、日当が出る(笑)。最初は八坂の勝野木材に入れてもらって1年弱いました。仕事は伐採業です。もっと森づくりのことを学びたいと思っていたところに、哲学を持って針広混交林(植林した針葉樹林だけでなく天然の広葉樹も混ざったより自然に近い森林)の経営をやっている荒山雅行さんと出会い、荒山林業で働き始めた。平成7年のことです。それから平成12年の春まで5年間そこでお世話になりました。僕が入る前から、Iターンで山仕事をしていた従業員が2人いて、3人で荒山さんから山仕事を教わった。

――なるほど、そのメンバーでその後起業をするんですね。

上の山の小屋で記念撮影
頼もしいきこり集団、山仕事創造舎

香山さん そうです。そのうち、荒山林業の仕事が少なくなったので、3人で仕事を求めて独立しました。ちょうど神社の周りの森林の間伐をしてほしいという依頼があって、場所がらとても手間が掛かるし、運び出しもあったので普通なら割に合わない仕事だったけど、荒山さんの山ではそれが当たり前のことだったから何とも思わなかった。労災保険を掛けたかったので、ちゃんと事業としてやろうということで名前を付け、開業届を出して始めました。「山仕事創造舎」設立ですね。その後も少しずつ話があって、その冬まで何とか仕事がつながったんですよ。

 春になってもう1人仲間が増えて4人になり、法人化の見込みが出てきました。ちょうど田中康夫さんが知事になったときで、民間事業体でも県の事業に入札できるようになった。それから、平成13年の国の法改正で、森林所有者でなくても、所有者から委託されれば森林施業計画を作れるようなった。どちらにも参入して事業を安定的に発展させることができるよう、平成14年4月に協同組合法人である企業組合を設立しました。

 仕事は、個人の山主からの単発的な委託作業と、県の保安林整備事業の入札、そして森林施業計画に基づく計画的森林づくり、時々草刈りなんかもしたけど、何とか回していたなあ。

 森林施業計画では、最低30ヘクタールのまとまった森林について、5年間の施業計画と、40年分の見通しを作って、市に提出するんです。まとまった山を持っている人を紹介してもらい、常盤の明沢での施業計画を作らせてもらったのが最初ですね。その後大黒町共有林、山の子村の周辺などの各地で施業計画を広げています。

――事業を始めるタイミングもよかったのですね。今も仕事は順調ですか。

森林整備前後の比較写真
森の価値を上げる整備

香山さん 今の日本の林業は、材は売れなくても、森の整備をすること自体に補助金が出るんです。僕らの今の仕事は、長期にまとまった面積の管理を任されて森林施業計画をつくり間伐をするという森林整備作業が主だけど、それが波に乗るのは平成18年からです。常盤の長畑の森林整備がその第一号。もともとは集落内に協力してくれる人がいて、5人くらいのとりまとめをやるはずが、どうせやるなら集落の周り全部をやってほしいという話になって、長畑の山全部で40ヘクタールをやりました。12月に話がまとまったんですが、野生鳥獣害対策の緩衝帯整備という目的もあったので、5月中が施業の期限だった。あのときは、長野県中から応援を頼み、なんとか期限に終わらせることができました。応援に来てくれる人を頼めるような同業者の横のつながりがあったからこそできた事業です。

 これ以後、北安曇では集落ごとの取りまとめが森林整備の基本になりました。地方事務所も各地で説明会をして、強力に集約化を進めた。今もそうです。その後新しく制定された森林経営計画という制度では、全国的に集約化による森林整備が基本になってきました。

 今までに約1300ヘクタールの施業計画を作りました。7〜8年に1回間伐をする計画なので、ある程度仕事は続きます。でも大北地域には5万ヘクタールの森林がある。植林したところだけでも1万5000ヘクタールもある。これだけの森からすれば、手をつけたところはまだほんの一部です。

 従業員は毎年入ってきていますね。一番多いときで1年に3人。平均して年2人のペースで入っているけど、全員定着しているわけでもないな。今は24人います。事務所と事務員を置いたのは、5年前くらいですね。

――山仕事創造舎として、事業を展開する上でのこだわりや課題って何でしょう。

杭材の写真
杭になる材

香山さん 僕らのこだわりは、生産林としての森の価値を上げること。いい木を残し、変な木を切る。そして次世代の森林をつくる中間層や下層の樹木を育てるために、作業の邪魔にならないやぶはあえて刈らない。どんな山でも生産林になり得るんだよね。整備の済んだ山の価値は上がっています。悪い木はみんな切ったから平均的な木の価値が上がっているし、道ができているから必要な木はいつでも切り出せるでしょ。

 日本の木材の自給率は3割弱。家の建材だけを見れば6割といわれています。木を切り出したいちばんいい所で柱や板を取る。次は合板の材料で、最後はまきや燃料用のチップ・紙の原料のパルプの順。全部無駄なく使えます。今大北全体で、補助金で出している間伐材が年間1万5000立方メートルくらいなんだけど、そのうち山仕事創造舎の分は5500立方メートルだから、残りが森林組合や他の林業会社という計算ですね。長野県全体では、30万立方メートルだから、大北から出ている材木は整備面積の割に一桁少ない。それだけ切り捨て間伐が多いということになるので、まだまだやる余地はあると思っています。

 だけどね、そんなにちょっとしか間伐材を出していないのに、売れなくて困っているんですよ。切り捨てではなくて、すべての材を出し始めたらもっと困ることになる。この辺が一番の現実的な課題ですね。

整備された森の様子
見上げると青空が…

 平成23年度からは、搬出した木材量に対しての補助が出るようになったので、世間では今間伐材が溢れかえっています。もう少し地元の材を使わないといけないんですが、間伐ではいい木は残して、悪い木を切るので、質の悪いものばかりが出てくるんですね。だからますます売れない。

 個人で木材を一番消費できるのは家ですが、地元の材が建材に使いにくいというのが問題です。3年くらい前から、九州や四国から外材よりも安い材が出てくるようになりました。あちらには大型の製材工場や大手の木材流通会社がある。工務店が発注するときにも、大きいところに頼む方が均一な材がすぐに用意できる。地元材は全国的な木材流通の仕組みにとても太刀打ちできないので、厳しいですね。

 次の間伐時期、遅くても10年後には、木材を今よりもいい状態で売る仕組みがないと困ります。

――山仕事創造舎にとって、大町の地域資源の魅力とは?

香山さん 生産性を別にすれば、こんなに面白い林業地はありません。大町って南北ですごく気候が違うでしょ。雪の量とか。それから東西では地質が全然違う。西が花崗岩、糸魚川静岡線という大断層を挟んで、東山の西斜面は火山灰質で東側は大昔海底に堆積した粘土。当然気候や地質で植生が違ってくるので、本当にいろいろなタイプの森林がある。とにかく広葉樹が多様です。常盤の扇状地にはアカマツ、八坂の地すべり地帯ではケヤキ。人工林は3割しかなくて7割が天然林というのも面白い。いろいろな林業ができます。画一的にはできないので、生産性を上げるのは難しいんですが、働く側としては、魅力ですね。

 整備が済んだ山は木材生産以外の価値もすごく上がっています。訪ねて歩く森としても非常にいいものができている。それが可能だということがこの地域の自然環境の豊かさでしょう。

――それでは、今後の新たな取り組みがあれば、教えてください。

香山さん そうですね、何といっても、生産性を上げる努力をしなくちゃいけませんね。

 それと森の多様性を売りにできるような仕事をする。そういう仕事をつくる。いま切り出して材にして売っているものは3分の1が広葉樹です。将来的にはそれを3分の2にできる。そこが一番の伸び代だと考えています。

木ろうそく写真
木ろうそく

 広葉樹の主力は薪ですね。薪ならスギよりも高く売れる。広葉樹をちゃんと生産してお金にしていくような仕組みを作る必要があります。広葉樹を生かすことで木工などで仕事起こしができる可能性がある。今林業が盛んなところは、スギやヒノキの人工林を育ててきたところです。逆にきちんと広葉樹を育てている林業地は少ない。ということは、ここの広葉樹の良さを仕事にできれば、林業の可能性が広がります。あと100年待てば広葉樹の銘木がいっぱい出ると思うけれど、ちょっと先過ぎるよね。

 まずは、薪の生産量を増やすことからでしょう。今もかなりの量の薪の原木を、県外に出しています。岐阜などは、いい材が安く出てくるところだけれど、ほとんど人工林なので、広葉樹はないんだよね。だけど、本当は、地域で出た木は地域で使って、なるべく地域にお金を回した方がいい。化石燃料の代わりに薪を使えばいいんだから。公共施設のようなところならどんどんできるのではないかと思います。

――最後に、市民の皆さんへのメッセージはありますか。

香山さん 大町の森には資源がある。やりようによっては宝の山です。よそと同じことをやらなければいい。木材じゃない価値を持っている森林なんて、よそにはなかなかない。そんな森にぜひ遊びに来てほしいですね。

事務所の窓から撮影した写真
大町営業所は、いーずら大町特産館の3階

企業情報

組織名
企業組合 山仕事創造舎
代表者
代表理事 香山 由人
創業
平成13年7月
郵便番号
〒398-0002
住所
長野県大町市大町3300番地1
つくだビル3階
電話番号
0261-85-0940
ファックス
0261-85-0941
ウェブサイト
http://yamashigoto.com

大町営業所

企業組合「山仕事創造舎」の所在地

 
ファクトリーハウス内部写真
間伐材のベンチ&テーブル
(鷹狩山山頂の展望台)
特殊伐採写真
特殊伐採技術で重機不可の場所
でも対応可能
木ロウソク写真
ストーブ用薪原木・きのこ原木・
丸太椅子・一枚板など販売

次回は「アルペンローゼ株式会社の従業員さん」を紹介します。

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)