大町市の地域資源を活用したコミュニティビジネスや、社会的課題に取り組むソーシャルビジネスを紹介します。

北アルプス山麓の平 野口地区で180町歩の田んぼを管理する
長野県の中でも水質が良いとされる高瀬川と鹿島川の合流地点で、米やソバをはじめ、リンゴ、野沢菜などの野菜を栽培している有限会社ライスファーム野口。自社で生産・加工・販売を手がける第六次産業化にも挑戦し、りんごジュースの製造のほか、そば処や農産物直売所の運営も行っています。そんな新しい事業に取り組む西山善久さんにお話を聞いてきました。
――ライスファーム野口はどうやって始まったのでしょうか?
西山さん 野口地区では長年にわたり、国や県の政策に沿って、時には各種の支援を利用させていただきながら、農業経営に試行錯誤を重ねてきました。
野口地区では国の減反政策や大町市西部地区の圃場整備をきっかけにソバ作りの集団転作組合を作り、大町市農業コミュニティー事業として三世代交流事業を行う地域農業振興会を組織し、コンバインの利用組合なども設立しました。失敗と成功を繰り返す中で、これら組織の統合が進み、それがライスファーム野口の前身になりました。行政からの後押しも受けて、法人化の検討を開始。長野県で初の認定農業法人になりました。設立までには大変な苦労があったと聞いています。
米価格の下落、農業者の高齢化、担い手不足、農業機械価格の上昇などにより農業を取り巻く環境は厳しさを増しています。個人では管理しきれない農地は増加しており、私たちはその受け皿となっています。設立当初は20町歩ほどだった管理農地も、今では180町歩まで増えました。
――広大な面積ですね。栽培しているのはどんな作物なのですか?
西山さん 主にお米とソバですね。その他にもリンゴ、大豆、季節ごとの野菜も栽培しています。
北アルプス山麓ブランドに登録されている特別栽培米の「稜線の風」は、減農薬で有機肥料を使い栽培していまして、地元の方はもちろん、県外の方からも繰り返し注文を頂いております。
――すごいですね。やはりおいしいからでしょうね。
西山さん ありがたいことにお客様からもそう言っていただいております。どんなに栽培方法をこだわっても、やはり味が伴わなければいけないですよね。北アルプスの水に育まれたお米は本当に格別の味だと思います。
――消費者としては生産者の顔が見えるという安心感もあるのでしょうね。
西山さん お米はブレンドしてしまいますとなかなか生産者までたどりつくことは難しくなりますし、われわれも顔の見える生産者として誇りを持って商品をお届けできるよう、お客様の安心につながる本当に良いものを作り続けていきたいと思っております。
「稜線の風」について補足しておきますと、北アルプス山麓ブランドの認定を受けているのは特別栽培米だけです。当社では通常栽培のお米も「稜線の風」という商標で販売しており、コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ、ゆめしなの の4種類を用意しています。
全部を特別栽培米にするのが理想なんでしょうが、作業の手間と効率を考えると、特別栽培米の生産は、現状が精一杯の感じですね。
――他に今後特に力を入れていこうという分野はありますか?
西山さん 二年前に直売所と「そば処ふるさと風味高瀬川」をオープンしました。「高瀬川」ではうちで育てたソバを食べていただくことができます。ソバもやはり標高の高い所の方がおいしくできるんですね。うちの粉は、間違いなくおいしいです! 最高のそばを皆様に味わっていただきたくて、店を建てました。
ソバの産地であっても、地元産のそば粉を100%使っている(※そば粉に占める地元産の割合)というところは実はとても少ないんですよ。「高瀬川」ではお客様にこの地域の本物の味をお届けしたいと思っています。
――まさに生産から加工、販売までを行う第六次産業ですね。
西山さん リンゴについても栽培のほか、ジュースへの加工と販売も行っています。地元農家生産のものも一部含みますが自社農場、自社工場にて一貫して生産から製造までを行っており、市販のジュースとはまったく違ったうまみがあると自負しています。どの商品もこちらに直接買いに来ていただいた方にはお値段もお安く提供しております。
六次産業化に関しては、口で言うほど簡単ではありません。生産者の立場では、直接販売が伸びることが収益の向上に直結するのですが、これが難しいのです。例えば、直売所では品揃えが重要となります。自分の所の商品だけだとシーズンを通じて棚を埋めることが難しく、お客様は物が少ないお店には来てくれませんので、商品の確保には常に頭を痛めています。冬場には野菜は全く無くなりますしね。商品を扱っていただいている流通チャンネルも大切にしながら、ネット販売や直売所の売上げも増やしていきたいと考えています。
――農業法人化について地域ではどのように見られているのでしょうか?
西山さん トラクターは1軒あたり年間20から50時間しか動かしませんが、ここでは500時間まで伸びます。1日で済んでしまう田植え用の機械だと25日は利用するので、稼働効率は劇的に上がります。大型機械を有効活用できることはメリットですね。私たちが法人化していなかったら、この地域の耕作放棄地は今よりずっと多かっただろうと思います。田んぼを3年間放っておくと、木が生えてきますし、害虫が増えたり、ネズミも入ってきます。土地をお預かりしている方からは「先祖から受け継いできた自分たちの財産を守れるのがうれしい。自分の息子が農業を継ぐかどうか、後継者の問題で悩む必要がなくなった。」との言葉をいただきます。
社会的信用度が上がったことが安心につながったのか、委託する方がどんどん増えてきました。とてもありがたいことです。もうひとつは、資金調達がやりやすくなったこともメリットです。応援してくれる地域の皆さんの期待に応えられるよう、これからも頑張っていきます。
――最近は農業に興味を持つ若い人が多いと思いますがどうでしょう?
西山さん 若い人から話をもらうことも多く、農業に興味を持つ人が増えていることは実感しています。そういった方たちがもっと農業に関われるようにしていきたいですね。うちにも夏の繁忙期には若いアルバイトの方たちがたくさん来ますが、彼らにとっても一番遊びたいときでもあるわけじゃないですか。シフト調整などで働きやすい場を作っていきたいと思っています。ただ、大町の農業自体が持つ問題として仕事が夏場だけに限られるのが現実です。冬期の仕事としてスキー場で働くなどして、収入を確保しているようです。
――地域の皆さんとの関わりについても教えてください。
西山さん 地域の皆さんには大変お世話になっています。水管理や草刈りなどを担っていただいていますが、本当に助かってますね。皆さんのご協力なくして事業は立ち行きません。地主さんだけでなく、定年退職した方、主婦の方もいらっしゃいます。農家の中には、自分の農地が終わった後にトラクター作業に来てくださる方も。もちろん、こういう場合には当社の機械に乗っていただいてますよ。大変ありがたいことです。
――大町の地域資源の魅力についてお聞かせ下さい。
西山さん やっぱりきれいな水とおいしい空気ですね。作物を育てるには最高の環境です。
それと、この素晴らしい田園風景です。北アルプスは四季ごとに姿を変えていきますが、その前に田んぼがあってその姿も変わっていく。これがいいんですね。
農業はただ作物を育てるだけじゃないと思います。お金にならなくとも、地元の農家の方は昔からずっと道路や水路まできれいにしてきました。畦草はもとより道端の草まで刈る、自分の土地じゃなくたってです。農家の皆さんに言わせればきっと「そんなのあたりめーじゃねーか!」という話になると思いますけどね(笑)。そうした地域のつながりも地域資源だと思います。
――それでは最後に市民の皆様にメッセージをお願いします。
西山さん 大町には良いところがたくさんあります。ここ野口の風景もそうです。草刈りをしていて後ろを振り返ったときにきれいな農地があって、その奥に北アルプスが見えたりすると最高の気分ですね。そういった美しい自然や景観を大事にしながら、農業を続けていきたいですね。
それと、ぜひ皆さん直売所やそば処 高瀬川にもいらしてください。
団体情報
- 会社名
- 有限会社 ライスファーム野口
- 代表者
- 代表取締役 豊田 悦司
- 創業
- 2004年2月16日
- 郵便番号
- 〒398-0001
- 住所
- 大町市平180-2
- 電話番号
- 0261-23-3038
- ファックス
- 0261-23-3316
- Eメール
- rfn@bf.wakwak.com
- ウェブサイト
- http://yoikome.com/
次回は「株式会社 八坂こうげん」を予定しています!
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