大町市の地域資源を活用したコミュニティビジネスや、社会的課題に取り組むソーシャルビジネスを紹介します。

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学習室と室内運動施設を備え、障害のある子供たちを温かく迎える児童発達支援センター

 暮らしの悩み、中でも子育てや介護の悩みはそれぞれ違い、公的サービスだけではなかなか対応することが難しい問題です。そんな中大町では、小回りの利く民間組織を立ち上げて少数多様かつ切実なニーズに応えようと、NPO法人キッズウィルの試みが続けられています。今回はキッズウィルの立ち上げメンバーであり、現在理事長を務めていらっしゃる福島百子(ふくしまももこ)さんにお話を伺いました。

――まず初めに、キッズウィルの事業や組織について教えてください。

キッズハウス遊学舎の玄関写真
キッズハウス遊学舎の玄関

福島さん 学童保育と配食サービスに、今年から発達支援が加わって、事業が3つになりました。「キッズハウス遊学舎」は、学童保育と塾の機能を備えたお迎え付きのアフタースクール。おやつを用意して、子供たちを『お帰りなさい』と迎えています。「おうちごはんホッと」では、店で家庭的な食事を召し上がっていただけるほか、配食サービスや、お弁当の注文も受けています。「児童発達支援センター」では、発達障害を含むさまざまな障害のあるお子さんのための、療育教室や放課後等のデイサービスを行っています。

 これらの事業を運営しているのがNPO法人キッズウィルです。

――福島さんは、元は大町の公立保育園の保育士をしていらしたと伺いました。どうしてこの事業を始めようと思ったのですか。

福島さん たまたま、今から7〜8年前、もっと前かな、ちょうどそういう発達障害に光が当たるようになって来たころ、松本児童相談所の児童心理司さんと短期の療育教室を少しやったんですよ。今の「スーパーあずさ」っていう市でやっている事業の一番最初のものなんですけど。

キッズハウス遊学舎の勉強部屋写真
遊学舎の勉強部屋

 そのときに、こういう子どもたちにとって、しっかりそういう療育ができる場所が必要なんじゃないかと感じたんです。

 だけど、やっぱりね、自分が保育園で働いていて、もう一つそういう仕事をやるなんて長くは無理。短期でしかできませんでした。みんなが自分の仕事以外にそっちをやっていたので、年に6〜7回しかできなかった。それでは必要としている子どもたちにしっかりとした療育ができないと感じて、自分でちゃんとした場をつくりたいと思ったんです。

 けれども、急に療育をやるのも難しいということで、まずは6年前にキッズハウスを始めました。2007年の4月です。受入れの子どもたちは5〜6人とか、そのくらいからでしたね。キッズハウスは今は50〜60人くらいの登録があります。その中で毎日来る子はそのうちの何人かで、あとはSST教室(※)とかのために、月に2回とか来る子です。毎日来てもいいし、曜日を決めて来てもいい。毎日来た方が得は得なんですけれどね。

 ※Social Skills Traningの略。社会生活技能訓練のこと。

――キッズハウスは行政の補助などは受けていなんですよね。こうした社会にとって必要なサービスを、受益者負担だけで採算ベースに乗せていくということは、なかなかしんどいことだと思います。

福島さん まずNPOの法人格を取って、学童保育を行う場としてキッズハウスを始めて、その後配食の指定事業者の指定を取って、配食が順調にスタートとしてという順番でした。配食サービスは2007年の6月か7月くらいにオープンしています。

 療育の方は、最初に市のきらり輝く協働のまちづくり事業に申請したんですけど、だめだったんです。代わりに県の元気づくり支援事業に採択されたので、療育教室を少しやりました。でもうまく続かなくて。どうしようかと思っているところに、児童発達支援事業所の指定を取ると補助が出ると聞いて、利用者の負担も安く済むというので、昨年4月にこの指定を取ったんです。県の補助金をもらって、児童発達支援センターを改装することができ、新たにスタートしたのは、今年の4月からですね。

――なるほど、一気に事業を展開してきたように見えますが、それぞれを軌道に乗せ、常勤のスタッフも抱えてやっていらっしゃることは本当にすごいと思います。

福島さん 私も公務員だったので、この事業を始めてみて、本当に民間って大変なんだなと思いました。今までにあるサービスの隙間隙間をつないで、今の事業がある感じですね。キッズハウスだったら、宿題しっかり見るよとか、市の学童と違って7時までやるよとか、おやつが出るよとか。配食だって、土日も配達するよとか、高齢者世帯以外でも自費で配達するよとか。本当に隙間のニーズに応えるサービスをやってきて、選んでくださる方がだんだん増えてきました。支援センターもそうですね。市ではできないところを、市からの委託を受けたりしながらやってきています。

 スタッフはすべて含めると、30人近い給料を計算していますよ。だけどそれは、例えば勉強を1時間見てくれるだけの人もいるし、お弁当配達するだけの人もいるし、いろいろすべて合わせてということになりますけれど。これだけで生計を立てている人もいれば家庭の主婦もいます。

 お弁当は共同作業所がんばりやさんに委託してお昼だけ配達してもらったりしています。そうすると、がんばりやさんの実績にもなるしね。

――なるほど、公の機関にはできなかった小回りの利くサービスなんでしょうね。その中で、こだわっていることがあったら教えてください。

日替り定食写真
おうちごはんホッとの日替り定食

福島さん 隙間隙間のニーズに対応して今の形になってきたんですよね、こだわりというよりは。配食サービスのほかにレストランもやっているわけですけど、別に素晴らしいご飯出すわけじゃないでしょ。普通の家庭のご飯なわけだから。素人がやっていることだから、大変なんだけれど、逆にだから来てくれる人もいるんだと思います。ごちそうじゃなくても、おうちの毎日のご飯を食べに来てくれる人で、お昼は結構満席です。

おうちごはんホッとの個室写真
おうちごはんホッとの個室

 奥には10畳くらいの個室があるんですよ。小さい子どもでも連れてゆっくりお母さんたちがくつろげる場所。2時間までは食事料金で利用ができ、7〜8人以上は貸し切りもできます。これは結構利用者がいますね。大体みんな予約してくれていて、予約がないと入れないくらいです。ニーズにばっちりあってるってことですね。小さい子どもがいて、ゆっくり食事にも行けないというお母さんたちの声を、保育園時代からずいぶん聞いていたので、そういう人たちだけのゆっくりくつろげる場所があればと思って作ったんです。

 キッズハウスについてもそうです。子どもたちの安全のために、学校からキッズハウスまでは送迎しているんですが、最初はとても大変で、無理かと思ったけれど、やっていくうちにそれが当たり前になっていくんですよね。

 発達支援センターの方も、もともとやりたかったことでもあるし、少しでもその人たちの力になれればと思っています。

――ええと、キッズウィルの場合は、大町の良さを生かしてビジネスを始めたというよりは、ニーズに応えてきたわけなので、これは答えにくいかもしれませんが、キッズウィルにとっての大町の魅力って何かありますか?

写真/お弁当の一例
お弁当の予約もできる

福島さん そうねえ、むしろウチがあるから大町が良くなったとは思うけど(笑)。

 行政の配食サービスの担当者は、大町は県内でもトップクラスのレベルだっていうんです。それはウチが丁寧にやっているからではないかしら。配食では、その人その人に合ったものを作るの。この人はおかゆとか、きざみとか。すごく大変なんだけど、それをやることで、その人がご飯をおいしく食べられればいいのかなって思っています。油抜きとか糖尿とか、刻みとかミキサーとかとろみとか、全部対応するんですけどね。食べる形状だけじゃなくて、メニューも多少アレンジしています。逆にそういうめんどくさいのがウチに回ってくるのかな。よそじゃなかなかできないからね。それが隙間ということなんでしょうけど。今午前中が30件、夕方が40件くらい配達していますけど、これだけ需要があるってことは、それなりに必要とされているんだと思いますね。

遊学舎の夏休みイベントの写真
遊学舎の夏休み

 ウチにとっての大町のいいところねえ。子どもを預かるときに、いろいろな自然体験のできるフィールドがそばにあるのはいいですね。夏休みは河原や国営公園、わっぱらんどなんかにも行きますよ。

 それから、配食やレストランでも、おいしいお米や野菜やお水があって、健康な食事が作れているのかな。普段あまり感じないけれど、都会に比べたら新鮮なものが安く手に入りますよね。そうそう、配食のときに、道が混んでいなくて、家の前まで行けるのは、すごく助かる〜っ(笑)。

――そうですね。毎日の暮らしの豊かさって普段は気付かないけれど、都会に行くと子どもの遊び場のなさや、食材の値段にびっくりすることがあります。今後の新しい事業展開とか取り組みがあったら教えてください。

福島さん そうですね、「キッズハウス遊学舎」、「おうちごはんホッと」、「児童発達支援センター」と、当面はこの三つを充実させていきたいと思っています。発達支援センターは始まって間もないことでもありますし。

 その中では、小学生ももちろんですが、未就学児の療育事業の充実も考えていきたいかな。発達障害で本人が一番困ることは、やっぱりコミュニケーションの能力の低さでしょう。いろんな子どもたちを見てきて、SSTなどの療育を受けるならなるべく早い方がいいと感じています。子どもが素直なうちに受けた方が本人が楽。5〜6年生になってからの方が難しいですね。だからといって、やらなくていいかというとそういうことではなくて、やればやっただけのことはあると思うんだけどね。

 今児童発達支援センターで提供している幼児向けの児童発達支援には、4〜6歳の子が20人くらい来ています。まだまだ受け入れる余地はありますよ。

雪遊びの風景
遊学舎の冬の遊び

――なるほど、必要としている方に、サービスが届くといいですね。それでは最後に、市民のみなさんに伝えたいことはありますか。

福島さん 子育てをしているお母さんたちに、選択肢の一つとして、キッズハウスのことをお知らせしたいかな。キッズハウスでは、次の3つの柱を保障しています。(1)子どもたちを『お帰りなさい』と迎える生活の場、(2)子どもたちが帰宅まで安心して楽しく過ごせる場、(3)学ぶ力、考える力、遊ぶ力、生活する力を育む場。学童保育と塾の機能を備えた、お迎え付きアフタースクールです。夏休みだけの利用も可能ですよ。先ほどお話しましたが、夏休みには家の中だけでなく、自然の中に出かけてさまざまな体験を楽しみます。また、夏休みや春休みにはお昼ご飯も付きます。子どもたちも本当に楽しみに来てくれているんですよ。

スタッフ集合写真
百子先生(手前)と遊学舎のスタッフ

団体情報

団体名
NPO法人キッズウィル
代表者
理事長 福島百子
創業
2005年4月
郵便番号
〒398-0002
住所
大町市大町2544番地
電話番号
0261-85-4055
ファックス
0261-85-4056
kidswillmail@tempo.ocn.ne.jp
ウェブサイト
http://www2.ocn.ne.jp/
%7ekidswill/1401.html

 

NPO法人キッズウィル関連施設マップ

 
キッズハウス遊学舎の看板写真
キッズハウス遊学舎
おうちごはんホッと店頭の写真
おうちごはんホッと
児童発達支援センターの写真
児童発達支援センター

次回は「有限会社 ライスファーム野口」を予定しています!

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)