大町市の地域資源を活用したコミュニティビジネスや、社会的課題に取り組むソーシャルビジネスを紹介します。

さくらの外観
地域に開かれた施設を目指す「さくら」

 大町市美麻大塩桜台に平成25年9月に開設された地域介護の複合施設「さくら」。介護の現場に長年携わった二人の女性の思いが形になった場所です。施設長の松沢司まつざわつかささんと統括施設長の山本幸恵やまもとゆきえさんにお話を伺いしました。

――まず、さくらについて教えてください。

山本さん 建物正面から向かって右半分が小規模多機能型居宅介護支援事業所、左半分がサービス付高齢者向け住宅となっています。

写真のツールチップ
左から松沢司さんと山本幸恵さん

 小規模多機能型居宅介護とは介護保険の3分野、通う(デイサービス)・泊まる(ショートステイ)・訪問する(ホームヘルパー)を一つの事業所で馴染みの職員が24時間365日提供する介護サービスのこと。利用者様は登録制で定員は25名となっています。

 通いも、泊まりも、訪問も登録された方のご希望でゆらぎを持って使えるのが特長。通所で来ているけど、今日は雪多いから泊まりたい。具合悪いから泊まりたい。泊まる予定だっけど、やっぱり帰る、など融通の効く使い方ができます。「その人のニーズに合わせた対応」が大前提。

松沢さん サービス付き高齢者住宅というのは、概ね60歳以上の方向けの食事付き賃貸住宅です。全部で10室あり、こちらは介護保険の対象外です。さくらの介護サービス利用が入居条件ではないけれど、やっぱり皆さんと居るのが楽しいということで、現在お住いの皆さんにサービスをご利用いただいています。建物の中央にあるのがサービス付き高齢者住宅のリビングルーム。地域の人たちも集える場所として使っていて、玄関は誰でも出入りが自由、ロックもありません。日中は、この場所に集まって、過ごすことが多いですね。

――介護事業で株式会社というのは珍しいですね。

写真のツールチップ
リビングルームでは体操が行われていました

山本さん 介護保険の事業は、小規模多機能居宅介護とサ高住の二つの事業を「株式会社山里舎」が、居宅介護支援事業を「NPO法人山里舎」が運営する「居宅あんじゃね」が行っています。これらが大きな三本柱。NPOは私の自宅が本部で、さくらの1室を事務所として借りています。将来は株式に統合する予定です。

 NPOでやれれば良かったんですが、私は60歳過ぎているのでお金を借りにくい。資産も無いので、融資の保証を付けるのに、銀行から「株式会社で」との要求があり、松沢と二人取締・二人役員・配当なしの株式会社を作りました。年齢のこともあり、松沢が社長となっています。

  • ケアマネの事業所で、さくら内ではなく広く大町・美麻・八坂・白馬での在宅支援ケアマネジメント業務を行う

松沢さん 株式って言うと、世間の目が冷たいです(笑)。儲かるような仕事ではないんですが、株式=民間でお金儲けのため…と思われるんでしょうね。周りの方も最初は様子見って感じでしたね。

――「さくら」を作ろうと思ったのは何故ですか?

山本さん 今から20年前に東京から移住してすぐに美麻村社協に勤めました。そこで初めて山のお年寄りたちに出会って、介護の仕事に目覚めたんです。だけど、学べば学ぶほど、地域福祉の遅れに気付かされて。

中山間地の写真
独居高齢者の増加は切実な問題

 社協で7年、あんじゃねで居宅介護支援事業所を始めて10年間、介護の現場を多数経験しました。独居の方やご家族が遠くに居る方など、自宅で介護しきれなくなった高齢者を松本や安曇野の有料ホームに紹介ました。けれど、山の中で暮らしてた人が都市部の有料ホームに入ってね、窓を開けて外を見たときの表情を見ると、それが本望じゃないと分かるんですよ。

 でも、在宅での介護の限界ってのは絶対ある。それを少しでも緩和したい。遠くに行かせずに最後までお見送りすることができる場所を作れないだろうか。そういう施設が地域に必要との確信がありましたね。ただ、忙殺されるケアマネ業務をやってきて「もう、ここまでかなぁ」と諦めかけていました。そんな時に松沢に出会ったんです。

松沢さん 私は、特別養護老人ホームに勤めていましたが、日々の三大介護に忙殺されていました。介護の仕事に嫌な思いしかなくなってきていて、自分のやりたい介護とのギャップに悩みました。大きい所だと融通がきかない。利用者様も職員も、自由に楽しく、好きなように発想し、生活できる場所がどこかにないかと思っていたんです。

山本さん 私が居宅で支援を担当していた方が、彼女のいた施設を宿泊で利用していたのです。初めて会った時に、この地域にもこんな人が居るんだって驚きました。ビジネスライクにきちんと仕事ができてホスピタリティに富んだ若い人ってなかなか居ないですから。介護への思いを話し合うなかで「一緒にやろう…」となったんです。それから紆余曲折あって、実際に施設がオープンするまで4年間掛かってますが。

――施設を運営する上でのこだわりをお聞かせください。

ジャガイモ収穫の様子
自分たちの畑で皆でジャガイモの収穫

山本さん ここは、人がキーワード。利用する人、働く人。人が人をお世話する、お互いが感じられる施設にしたい。プロ意識を持ちつつ、家族のように。人は最後には必ず死ぬでしょう。高齢者のお世話というのは、終わりの何年かをできるだけ安楽に安寧に幸せに過ごしていただくことに尽きると思います。利用者と職員ではなく、人間同士、皆で暮らす大きな家を目指しています。この理念をスタッフ全員で共有できるようになりたいですね。

松沢さん サービス付き高齢者住宅というのは、介護保険の管轄ではなく、単なる食事付きのアパートなんです。介護施設でなないので、介護サービスを使おうとすると、自分のお部屋からお隣にある施設に通う形になります。お部屋の掃除や洗濯は、介護保険のサービスとして私たちがお部屋を訪問して行います。

 サービスに近いところに移り住んでもうらことで、在宅の限界を乗り越えようという発想なんです。一つ屋根の下にあるけれど、独立した世帯である。ここを職員が勘違いすると、ただの施設になっちゃうんです。個人のニーズを優先することを忘れ、施設や職員の都合で業務が流れてしまう恐れがあるんです。同じ建物内だけれども、あくまでも在宅のサービスだということをスタッフに意識させることを心がけています。当然さくらにお住いの方だけでなく、主に美麻在住の在宅の方14名へも訪問や送迎など在宅支援をしています

山本さん もう一つは、地域の人たちに出入りしてもらうことかな。関係者以外は出入りがない閉鎖的な施設にはしたくないんです。小規模多機能の施設は、経営しながら地域の集まりや、レクレーション行事をしても良いことになっています。地域の方に「こういうのが出来てよかったね」といってもらえるよう地域と一緒に歩んでいきたい。指定施設にはなっていませんが、災害の時には地域の皆さんを受け入れられるように災害備蓄をしています。

――地域資源の魅力とはなんですか?

刺し子作品の写真
ご利用者様による見事な刺し子作品

松沢さん 何と言っても利用者様がすごく魅力。山のお年寄りは素敵です。認知症はあるけど、手が覚えていたり、体が覚えていたり、いろんなことを教えてもらえます。うどん打ったり、おやき作ったり、栗の皮を剥いたりしてくれる。飾ってある刺し子だって大したもんですよ。畑だって田んぼだってやってくれる。子供たちの訪問時に、いろいろ教えているのを見ると、こういう人たちこそがこの地域の宝。知恵袋だと思いますね。

山本さん ご利用者様の平均年齢は90を超えています。けれど、年齢の割に介護度は低い人が多いです。でも、皆さん認知症があっても集団生活ができないわけではない。人としての生き方のスタンスが地に足がついている。中山間地だと活用できる資源といってもそんなには無いんだけれど、今の美麻があるのはこの人たちが居るからって強く思います。景色と同じで本当に凄い地域資源ですよ。

――今後の取り組みや展開を教えてください。

山本さん 参加者の年齢を限定せず、お年寄りも若い人も一緒に体操したり、笑ったりできる「元気学校さくら」を始めます。介護予防より地域衰退予防、地域振興。地域の人たちが元気になることを目的にしたい。会場は、ここと二重市民農園の管理棟。ゆくゆくは広げていきたいですね。

 学ぶのは、音楽、体操、手芸、クラフトなど、あまり子供っぽくならないようにします。講師で来てもらう人も、それなりに伝えたいことを持っている人をお呼びしています。皆様、ぜひ気軽にご参加ください。

松沢さん それから、サービス付き高齢者住宅が満室となった今、たくさん寄せられるニーズにどうやって対応していこうかと考えています。

――最後に市民の皆さんへのメッセージをお願いします。

山本さん いつでも気軽に遊びに来てください。静かの桜の季節にお花見にくるでしょう。そんな時にトイレ借りにきてください。玄関の扉を開けて、入ってきてください。ここでは敢えて高齢者施設という看板を出していないんです。いつ訪ねられても大丈夫なように職員を鍛えて待っています。

 ここで働くスタッフは、居宅ケアマネ含め17名のうち15名が大町市民です。若い人はもとより60代後半までの雇用の場としても地域に貢献していきたいと思っています。

静の桜
施設の隣には静の桜

企業情報

名 称
株式会社/NPO法人 山里舎
代表者
松沢 司 / 山本 幸恵
創 業
2013年9月
郵便番号
〒399-9101
住 所
長野県大町市美麻字桜台3363番地6
電話番号
0261-29-2840
ファックス
0261-29-2750
yamazato1@sakura-miasa.com
(あんじゃね)
anjyane1@sakura-miasa.com

さくらの所在地

さくら

 
ショートステイ居室写真
ショートステイ用の居室
サ高住居室の写真
お風呂は檜の浴槽
元気学校チラシの写真
元気学校さくらのチラシ

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)