大町市の地域資源を活用したコミュニティビジネスを紹介します。

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左から菜の花農業生産組合の竹折敬喜代表、菜の花ステーションの傘木宏夫代表と
スタッフの西澤佑夏里さん

 初回となる今回は、美麻(中山)高原の菜の花オイルをご紹介します。事業戦略と広報及び販売を担当する合同会社菜の花ステーション(事業開始当初はNPO地域づくり工房)、菜の花の栽培とオイルの生産を行う菜の花農業生産組合、それぞれの強みを生かした分業体制で菜の花オイルを大町の特産品に育て上げる努力を続けています。

 菜の花ステーション代表の傘木宏夫さんと菜の花農業生産組合組合長の竹折敬喜さんにお話を伺いました。

――菜の花と関わるきっかけを教えてください。

傘木さん 2002年にNPOを発足した時に、地域資源を活かした、市民による新たなまちづくりを模索しようと「仕事おこしワークショップ」を行ないました。そこで生まれた計画の一つが「菜の花エコプロジェクト」でした。

中山高原の春
残雪と菜の花の対比が美しい春の中山高原

 地域にある活かし切れていない資源をリストアップする中で、閉鎖されたスキー場や休耕田、温泉郷から出される生ごみや廃食油、働く意欲のある高齢者や障がい者、冬場に余剰となる建設労働者が眠れる「資源」だと分かりました。これらの有効活用を図るために、滋賀県発の菜の花による資源循環サイクルに目を付けました。当初は、菜種を栽培し、てんぷら油として販売、廃油を回収してバイオディーゼルに再生する資源循環型エコサイクルを目指しました。

竹折さん 今、ソバや菜の花畑のある場所は、大町スキー場の第二ゲレンデとして利用されていました。スキーブームが去って、スキー場が閉鎖された後は荒廃地となっていました。これではもったいないし、見た目も悪いと、4、5人が集まりソバを作り始めました。この時、菜種が発芽しました。昔の種が出てきたのです。菜種も栽培できるのではと思い、作り始めました。遊休農地を無くすことを行政から求められていたこともありますね。

中山高原の秋
白いそばの花が風にたなびく秋の中山高原

 7月下旬にソバの種をまくと10月には収穫となりますが、同時に菜種もできるんです。というのも、菜種はソバと一緒に種をまくからなんです。ソバは75日で収穫できますが、菜の花はひと冬越さないと咲かないのです。翌年の5月中旬に咲いて、6月半ばに刈り取り、油を搾ります。5月には菜の花、9月にはソバの花が北アルプスを背に美しく咲き誇ります。

 最初は油をとることは頭にありませんでした。せっかく菜種がとれたんだから、油にでもしようかという感じでした。

――当初、地域づくり工房と菜の花農業生産組合の活動は別々で動いていたようですね。活動はどのように進展し、結び付いたのですか?

竹折さん 天ぷら油として使おうと思ったら、どろどろで適さない。どうしたものかと困っていたら、傘木さんのところで、シェフの先生に相談してくれたんです。このアドバイスに従い、菜の花バージンオイルを製造するようになりました。

傘木さん 廃油の再生については、バイオディーゼルを市のごみ収集車の燃料として使うなど、一定の成果が得られましたが、油の製造ではつまづきました。粘度が高く、色も悪く、そのままでは天ぷら油としては売り物になりませんでした。でもこの油、なめてみるとおいしいんです。そこで面識のあったフランス料理の石鍋裕シェフ(初代料理の鉄人)に味見してもらいました。すると意外な言葉が返ってきたんです。「てんぷら油の発想はやめなさい。これはバージンオイルです。フランスの一流レストランでは農家と契約し、注文すると搾りたてのオイルが届くようになっている。こういう新鮮で味わいのある油が日本で手に入るなら、ぜひ使いたい」と。

菜の花農業生産組合集合写真
石鍋裕シェフ(手前中央)と菜の花農業生産組合員

 調べてみると国産の菜種オイルは非常に貴重なものだと分かりました。そこで日本唯一の注文搾油によるバージンオイルを看板に、料理の味付けやアクセントに使う調味油として販売する方針に変更しました。

竹折さん 長野県の支援金で搾油設備を導入しましたが、補助されるのは全体の半分までです。残りは自分たちで用意しなければいけない。また、団体として申請する必要もあります。それで生産組合を作り、銀行から借金して機械を入れました。その借金も先日ようやく返し終わりました。ただ、菜種からの収入だけでは全然足りなかった。一緒に作っているソバの売上げが安定していたお陰で、どうにかなりましたが…。

――そうして出来上がったのが、菜の花オイルですね。どんな特長があるのでしょうか?

搾油の様子
搾油の様子

傘木さん ここで栽培しているのはキザキノナタネです。健康に悪影響を及ぼすエルシン酸が少なく、味の良いオレイン酸を多く含むよう改良された品種です。収穫した菜種を種のまま保存し、注文を受けてから焙煎し、自然濾過で抽出し、出荷しています。

竹折さん 油は目の細かい厚手の布袋で時間を掛けて落とします。こんなに手間を掛けて作っているのは、私たちくらいだと思います。搾油は大変難しいです。方法をいろいろと研究し、現在の方法にたどり着きました。いかに良いオイルを作るか日々研究しています。酸化を少なくするために注文製造しています。種の在庫量に応じて、毎年の作付け面積を調整しています。

――現在の協力体制を教えてください。

竹折さん 私たちは油を作ることはできますが、売り方を考えたりはできませんし、買いにくるお客様の相手も無理です。視察にも大勢来ますが、その都度相手をするのには人手が足りません。こうした部分を全部、菜の花ステーションにお任せしています。私たちはそこからの注文に応じてオイルを生産し、瓶詰めして、まとめて菜の花ステーションに納めます。「菜種栽培・オイル製造」と「販売企画」の二つの専門部が連絡を取り合うイメージです。

傘木さん 菜の花ステーションは、合同会社として地域づくり工房から独立しました。当初の目標であった起業までこぎ着けたのです。活動を通じて立ち上がってくる仕事にはそれぞれに人格を与え、独立させることにしています。営利部門は外に出し、地域づくり工房は非営利活動に徹します。

――大町の地域資源の魅力は何でしょうか?

菜の花オイルパッケージ写真
美しく描かれた風景が商品の魅力を高める

傘木さん 日本全国で特産品の開発を競っていますが、どうブランド化するかが成功の鍵となっています。品質の良いもの、おいしいものは、もはや最低限の基準となり、それ以上に他と差別化する要素が必要とされています。ブランド化に必要なのは物語。それは苦労の歴史や困難の解決など商品と一緒に語られるストーリーです。それが、消費者が商品を選ぶ際の決め手になるので、私たちは一つ一つの課題に地道に向き合っているのです。このオイルの魅力を大きく高めているのが、パッケージに描かれた絵です。アニメの背景美術を手がける工房「草薙」の絵の素晴らしさに加え、この丘陵地帯の向こうに北アルプスを望む構図が、ここだけにしかない風景として製品に力を与えていると思います。

竹折さん 地域資源というのは「そこから恩恵を受ける」という類いのものではないと思いますね。むしろ「そこにあるものをいかに活用するか」に尽きます。農業は土地なくして始まりません。そして、そこに育つ作物が全てです。それが地域資源と考えます。

芽吹いたばかりのソバ
その土地に昔からあるものの中に地域資源は眠る

 ここは高冷地でソバ栽培の適地です。標高800メートル以上の高冷地のソバは段違いに味が良いと言われます。でも、ここは、冬は半年も雪に閉ざされてしまう。決して住み易い場所ではない。ソバは霜に当たると全滅してしまいます。でも、それを計算に入れて栽培計画を立てれば、ちゃんと収穫できる。その地に適したものを経験から得た知識を生かしながら育てることで、初めて地域資源からの恩恵が得られるのだと思います。昔からここの暮らしの中にあって、消えてしまったもの。こうしたものの中に地域資源が眠っているのだと思います。

――新たな取り組みや課題があれば教えてください。

菜の花オイル普及活動の写真
菜の花オイルソムリエ養成講座を開催

傘木さん 日本には調味油を使う文化が育っていません。当然、消費量も少なければ、価値を理解している消費者も少数です。普通の人は「菜種油? そうは言っても天ぷら油だろう?」という誤解があります。そこで、一般の人の常識を変えるため「菜の花オイルソムリエ認証制度」を創設するべく研究会を発足させました。菜の花オイルとプロジェクトへの理解を得られるよう、菜の花オイルを食文化として演出する担い手を増やす努力を続けていきたいと考えています。

竹折さん おひさまブームもあって、最近では多くの観光客の皆さんが来てくださいますが、ここを管理し農作業をしているのは本当に少人数で、高齢者ばかりです。後継者が足りないのです。少し疲れたというのが正直なところです。それでも、こうしてたくさんのお客様があり、地域の方にも喜んでいただけている実感があるので、どうにか続けていられるのです。若い人が農業を選択できるような環境を整備してもらえたらなぁと思います。

――最後に、市民の皆さんに伝えたいことをお聞かせください。

傘木さん 栽培から製造まで100%大町産の菜の花オイルは食用油の中でも、特にその香り、風味を味わう香味油、調味油です。新しい感覚の「掛け油」として、ご家庭でお試しください。ホームページではレシピ編耕作編製造編に分け、詳しく説明しています。ご質問等ありましたら、お気軽にお問合せください。

竹折さん ぜひ、菜の花オイルを食べていただきたいですね。オイルには、ご家庭で簡単に作れるドレッシングなどのレシピが付いてきます。一般のお宅にも広く普及してもらえたらうれしいです。また、地元産のおいしい「蕎麦」も食べにきてください。

菜の花オイル受賞記念写真
全国お宝食材コンテストで選定

企業情報

組織名
菜の花農業生産組合
代表者
代表 竹折 敬喜
創業
2004年4月
郵便番号
〒399-9101
住所
長野県大町市美麻新行
電話番号
0261-23-1056
ファックス
0261-23-1056
メールでのお問合せは
菜の花ステーションへ

スタッフ写真
菜の花オイルや関連商品も販売中

企業情報

会社名
合同会社 菜の花ステーション
代表者
代表社員 傘木 宏夫
創業
2012年4月
郵便番号
〒398-0002
住所
長野県大町市大町3302
電話番号
0261-85-8040
ファックス
0261-22-7601
nanohana@omachi.org
ウェブサイト
http://nanohana.omachi.org

菜の花オイルに関連する場所・施設

菜の花オイル地図

 
菜の花ステーション事務所
駅前本通りに面した菜の花ステーション(NPO地域づくり工房内)
おひさまそば畑ショップの写真
季節限定のおひさまそば畑ショップ(8/25〜9/10、9/15〜17)
新行水車小屋写真
中山高原のすぐ北の新行地区ではおいしい地元産の蕎麦を味わえる

次回は「信濃大町のつけものや」を予定しています!

関連リンク

○ながの創業サポートオフィス(長野県中小企業振興センター)

○信州人キャリアナビ(長野県商工労働部労働雇用課)

○中小企業相談所ホームページ(大町商工会議所)

○定住促進ホームページ(大町市役所)