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山笑う季節(平成21年4月)

 大町周辺の里山では、落葉広葉樹の森が多く、私は春の芽吹き直前の山の風景に惹かれます。春先の山は、木の芽が膨らみ枝先が赤みを帯びてきて、山全体がほんのり色づき、温かみさえ感じます。

 俳句の春の季語で「山笑う」というのがあります。正岡子規の句に、「故郷やどちらを見ても山笑ふ」というのがあります。山が笑うとは、いったい春の山のどのような様子を指しているのか、広辞苑で調べてみますと、「春の芽吹きはじめた華やかな山の形容」とあります。ちなみに、冬の山は「山眠る」というのだそうです。人の動作にたとえる擬人法の表現で、中国北宋の画家、郭熙の「山水訓」の「春山淡冶にして笑ふが如く、夏山は蒼翠にして滴るが如し。秋山は明浄にして粧ふが如く、冬山は惨淡として眠るが如し」からの引用とのことです。
 どうやら「山笑ふ」とは、芽吹き前の状態をさすのではないようで、私としては残念ですが、いっせいに木々が芽吹くにぎやかな春山よりも、やはり私はもう少し早い時期の、芽が膨らみ山全体が赤みを帯びてくる早春の山のイメージ、いわば「含み笑い」している山が好きです。

 北アルプスの麓大町では、木の芽が出る前のこの時期に、コブシやタムシバの白い花が山肌を霞のように染めます。大町ではむしろタムシバの花の方が多くないかと思います。タムシバは「ニオイコブシ」とも呼ばれ、私は嗅いだことがありませんが花に良い香りがするそうです。この二つの花はともにモクレン科で、よく似ていて、花だけではなかなか見分けがつきませんが、葉の形が少し違い、コブシが丸みを帯びているのに対してタムシバはやや細くなっています。葉を口に含み噛むと、キシリトールのような甘味があります。

 こうした落葉する木々が多い大町の里山をよく眺めてみますと、落葉樹に混じってところどころ常緑の木々があります。マツやヒノキといった針葉樹のほかに、ソヨギやエゾユズリハなどの常緑広葉樹もあります。ソヨギはソヨゴとも呼ばれ、暖地系の樹木とされますが、大町周辺でもよく育ち、常盤、平地区のほか、八坂、美麻地区では比較的大きく成長しているのも見かけます。ソヨギの名の由来は、堅めの葉が風に吹かれさやさやと音を立てるので、「そよぐ」からついたと言われます。一見すると、神事に用いられるサカキにも似ており、寒さのためにサカキがよく育たないこの地では、代わりにソヨギが神事に使われています。あまりに当然のごとく使われていますので、中には、ソヨギをサカキと思い込んでいる人さえいます。

 葉を落としている林の中でも緑色の葉を失わず、生命力の強さを感じさせるこのソヨギの木が、私は好きです。雪に埋もれてじっと春を待つ姿は、冬に耐えこの地に住む人々の、気持ちの明るさと芯の強さを象徴していると思うのです。

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