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「まてい」を考える

  この地方で使われる方言に「まてい」という言葉があります。「まていに」と、副詞のように使われることも多く、「ご飯は残さないよう、まていに食べなさい。」とか言います。「まてい」とは、丁寧にとか、大切に、真心をこめて、といった意味ですが、私は小さい頃から少々ものごとのやり方が粗雑だったので、今は亡き母親から、「まていにやりましょ(丁寧にやりなさい)。」とよく諭されたものです。

 実はこの言葉はれっきとした日本語の古語で、広辞苑にも「真手」として載っています。「ま」は二つ揃っていて完全である、とか、左右両手の意味、となっています。
 聞くところによりますと、この逆の言葉は、「野手(のて)」だそうです。広辞苑には見当たりませんから、この地域特有の方言なのかもしれません。ひなびたさま、野卑なやり方、とでも訳したら良いでしょうか、この言葉も、よく親に言われたものです。「お前は野手だなあ。」などと。よほどやることが雑だったのでしょう。

 最近借りて読んだ本に、東日本大震災の原子力災害で全村民に避難指示が出されている、福島県飯舘村の村長菅野典雄さんの「美しい村に放射能が降った」という本があります。その中で、災害の起こるその日まで、村が全村あげて目指した理想の姿「までいライフ」について書かれています。「までい」は「まてい」で、効率一辺倒、お金がすべてとは違う価値観の村を目指すものです。つまり「までいライフ」とは、地産地消や心の豊かさを志向する村民の生き方、暮らし方を指しています。信州に残っている方言「まてい」と福島県飯舘村の「までい」という共通の言葉に、何かご縁を感じ、親しみを覚えます。

 少し詳しく説明しますと、それまでの村の振興計画に「クオリティライフ」が据えられていましたが、これには、暮らしの質を吟味し、今ある環境の中で無理をせず自分らしい生活を送っていこうという意味が込められています。村長さんは、次の計画を策定するにあたって、この考え方をさらに進めるのに何かふさわしい表現はないか考えたのだそうです。初めこれを「スローライフ」と表現しようとしたのですが、「スロー」という語を「怠ける」とイメージした村の人々に賛同を得られず、ある村民がふと口にした地域の言葉「までい」に落ち着いたとのことでした。「大いなる田舎までいライフいいたて」のスタートでした。大震災の起こるその日まで、順調に村づくりが進められ、飯舘村は、「本質的な意味で明るい農村だった」と書かれています。

 菅野村長さんはアイデアマンで、村内にある「あいの沢」という地名をヒントに、「愛」にこだわりを抱いて公園整備を進め、愛にまつわる俳句を全国から募集して、入選作を村で産出する御影石に刻み込んで園内に展示するなど、話題となる村づくりを進めてこられました。大震災が起きてから今日までの村長さんのご苦労と獅子奮迅のご活躍ぶりは、報道などで多くの方がご存知のとおりです。災害からの一日も早い復旧、そして村の復興をお祈りするばかりです。

 つい先々月亡くなった女性環境保護活動家ワンガリ・マータイさんは、その功績によりノーベル賞を授与されましたが、生前、地球環境や平和、男女共同参画など幅広い活動にその生涯を尽くされました。とりわけ日本では、「もったいない」という精神を、そのままの日本語(MOTTAINAI)で世界に紹介して、資源の大切さを全世界に訴えたことで大きな話題になりました。アフリカ大陸各地で植林活動を実践し、最近でもテレビのニュースなどで植樹をしている映像が繰り返し流れていました。
 このマータイさんにより世界中に流行することになった「もったいない」という言葉には、一般に、ものの価値を十分に生かしきれておらず、無駄になっている状態に対して、それを残念に思ったり、戒めたりする気持が含まれています。その背景には、自然や物に対する敬意があるのだと思います。

 この「もったいない」も、「まてい」という言葉と通じるところがあります。もともとの意味は異なりますが、ものを大切にする、丁寧に扱うという点からは、両方の言葉には、ともに「大切に扱う心」が原点にあるのではないでしょうか。この稿を書いていて、おやっと思ったのですが、「もったいない」を提唱された「マータイ」さんの名前と「まてい」は、ちょっと語感が似ています。偶然ではありますが、マータイさんは私たちに、地球上の限られた貴重な資源を「もったいない」と考え、「まてい」に扱うよう呼びかけているように思えるのです。

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