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信濃木崎夏期大学で神野先生に学ぶ

 今年も恒例の信濃木崎夏期大学が開講しました。大正6年に始まり、太平洋戦争中も途切れることなく続けられ、今年で91回目を迎えます。アルプスの麓のこの地で、木崎湖畔の丘に立ち、眼下に湖を望むさわやかな緑陰で開催されるこの夏期大学は、今日、全国各地で開催されているこうした開放講座の草分け的存在となっています。この運営には、地元北安曇教育会の先生方が食事の賄いから掃除など、すべて手弁当で行っていただいており、8月1日の読売新聞紙上の「きょういくエッセー」のコラムに、信濃教育会の前会長で、今、郷里大町で生涯学習の振興に取り組まれている牛越充先生が詳しく書いていらっしゃいます。

 9日間の講義の初日の開校式には私もご挨拶に伺い、内外から大勢の聴講生をお迎えし、すっと続けられてきた夏期大学は、大町にとっても誇りでもあり、また、アカデミックな講座内容の中にも、今日的な課題を取り上げていただいていることに深くお礼を申し上げました。
 4日目には、神野直彦先生が、「希望の構想」と題して日本経済の現況とあるべき政策の方向性について、厳しい地方財政の状況を踏まえご講義いただきました。土曜日であったこともあり、私も昨年に続き聴講させていただきました。

 講義の中で神野先生は、日本には「過剰な豊かさ」と「過剰な貧困」の二つの過剰が溢れ、これを脱する脱格差社会を目指す戦略についてお話されました。まず先生は、経済波及の考え方としてトリクルダウン効果とファウンティング効果という概念について解説されました。先生のお話を私の乏しい理解力で整理しますと、トリクルダウン効果とは滴り落ちるという意味で、豊かな者の富が下に滴り落ち、効果が経済全体に広がっていくというものです。これは、構造改革など、政府が進めてきた規制緩和による経済再生策と同一基調の考え方で、例えば、規制緩和を進め東京など都市圏の経済を活性化すれば、それが牽引車となり、効果は全国に波及するという主張に繋がります。先生によれば、このトリクルダウン効果という考え方は、経済学的には否定されているのだそうです。現に今の経済状況は、大都市圏は確かに景気の立ち直りはなったものの、その効果は広がりが少なく、他の圏域には滴り落ちないため、地方の多くは景気回復の実感に乏しく、地域格差は拡大する一方です。更に、同じ大都市圏域内でも個人の所得格差は急激に拡大しています。

 これに対して、先生が重要性を指摘されているファウンティング効果とは、上から経済を活性化するのではなく、文字通り「泉」のように下から、各地域から湧かせていくというものです。格差の拡大は経済のグローバル化が背景となっており、これを是正し、均衡ある国の維持発展を考えるとき、地域を大切にしていくことが大切だとおっしゃいます。
 そして、地方財政についていえば、このグローバル化の時代にこそ、地方財政の基本的な仕組みである地方交付税制度がいっそう重要であり、とりわけ、その機能のひとつ、財源保障機能が大事であるとのことです。

 地方交付税は大きく2つの役割を持っていますが、1つは全国の地方自治体の財政力を均衡させる格差是正機能で、均展化機能とも呼ばれ、これは財源の乏しい団体に財源を補填する役割をいいます。もう1つが財源保障の機能で、地方財政全体で必要な総額を確保し地方財政の安定性を保障すると同時に、個々の地方自治体が標準的な住民サービスを維持していくために必要な財源をそれぞれに交付し保障するという機能です。先生は、構造改革、三位一体改革で弱体化されてしまった交付税のこの保障機能こそ、もう一度きちんと再構築されなければと力説されました。私もそのとおりと思い、意を強く致しました。

 先生は、昨年の講義で、小さな政府でなく、もちろん大きな政府でもなく、「程よい政府」を提唱されました。今年も租税の負担水準と経済成長の相関関係を、1970年代から2000年にかけての10年刻みで、世界各国の状況を比較検討されました。その結果として、工業社会に立脚した70年代から80年代にかけては、日本のような租税負担率が低い国が成長する傾向があったのに対し、脱工業化、知識・情報化社会となった90年代は、成長と税負担は相関しないとの分析です。つまり、「低負担で小さな政府」でもなければ「高負担で大きな政府」でもない、「グローカル」な福祉社会、地域社会の再生を目指す行政のあり方を説かれたのです。

 また、政府税調の委員でもある先生は、税に関して、所得税の金融資産課税が分離課税となっているため、結果として所得税の累進性が、最も高所得者の階層で逆転していること、また、社会保険料の負担水準が非常に高いことに国民の関心が低いことを懸念されていました。
 大正年間に建てられた畳敷きの講堂、信濃公堂の広く開け放たれた空間に座り、時折トンボや蝶が舞い込んでくる涼風の中で、時間の経つのも忘れ、時代の最先端の講義を受ける至福のひと時をいただきました。

 21世紀は、人権の世紀、環境の世紀、また、福祉の世紀といわれています。いずれも私たちの日常の行為や生き方に深く関わる課題であり、常にこれらの課題に関心を抱き、学び続けて自己実現を図っていく努力が欠かせません。この夏期大学は、開講以来、全国の人々に開かれた大学、生涯学習の拠点として、主体的な学びを求めて来堂いただく多くの皆さんに、大きな示唆や感化を与え使命を果たしてきましたが、これからも未来を見据え、更に歴史を刻み続けて行くことを願って止みません。

8月7日 市長室にて

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